介護職員の平均給与30万円超えは本当か

先日、訪問介護事業所の経営者と食事をする機会があった。いろいろ話をしたが(僕には珍しく)、とりもなおさず介護業界人の共通の話題も出た。現場の人材不足についてだ。介護の仕事に従事する人たちが避けて通れない話題。もはや人材不足について論じることは天気の話をすることと同じくらい習慣化している。どこもかしこも「(人が)足りない、足りない」と言っている。お互いのIDを確認するキーワードみたいに。もし、「ウチは人が足りてますけど」とでも言おうものなら、その人はそっこく逮捕されて、火炙りにされるんじゃないだろうか。

「あそこに介護職が足りているところがあるぞ!」
「なに?それはおかしい。異常だ!」
「そんなおかしなこという奴はつかまえて火炙りにすべきだ!」

それくらい「異常」が「通常」になっているのが介護業界の人材不足問題である。

その経営者(ちなみに僕と同世代の男性である)も、求人を出してもぜんぜん応募がないと嘆いていた。直接の当事者からそういった話を聞くと、改めて介護職の絶対的不足を感じることになる。やはり世間が言うように介護職の給料が低いから求人に人が集まらないのだろうか?僕はそれだけではあるまい、と思っている。

「介護職の給与は低いと言われますけど、給与を出しているほうからするとそれほど低くないし、ハローワークをみたらもっと低い給与の仕事はたくさんありますよ」と彼は言う。

僕は経営者でもないし、給料の計算をした経験もない人間だが、彼の言わんとすることはまあ理解できる。
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介護職は月30万円ももらっているのか

介護職員の平均給与、月30万円超える 人手不足や加算で約1万円増 厚労省
https://report.joint-kaigo.com/article-11/pg545.html

厚生労働省は10日の専門家会議で、介護職員の処遇の動向を探る調査の最新の結果を公表した。いずれかの処遇改善加算を算定している事業所で月給・常勤で働く介護職員の給与(*)は、昨年9月の時点で平均30万970円。2017年9月と比べて1万850円上がっていた。1万850円の内訳は、基本給が3230円、各種手当が3610円、一時金(ボーナスなど)が4010円となっている。

「30万円超え?ほんとかよ」、と介護職経験者なら誰でもつっこみをいれたくなる。最初に断っておくと、「平均給与、月30万円超え」というのは、厚労省がかなり「盛った」額である。僕はこの額は、厚生労働省お得意のデータ改竄の結果だと思う。100歩譲って、改竄ではないとしても、データの収集方法にかなり問題があるはずだ。

この平均給与にはボーナスも入っているが、いずれにしても普通の介護職員の手取りが30万円を超えるわけがない。厚生労働省は統計データを改竄していた前歴があるし、今回の調査結果も頭から信じることはできない。「ふんっ」と無視すべきなのだろう。

しかし、介護職がぜったいに手取り30万円を超えないか、というとそうでもない。施設の介護職が処遇改善加算&残業&夜勤を10回もすれば、手取りで30万円もらえる人はいると思う。逆に言えば、残業&夜勤10回もするならこれくらいもらわないと割に合わないといえるのだが。

夜勤が10回というのははっきりいって異常である。僕の夜勤の最高勤務回数は月8回で、これが3ヶ月ほど続いたが、生活リズムが完全に狂ってしまった(虫歯もできたし体重も減った)。16時間勤務の夜勤を月8回だから、日勤帯に出てくることがほとんどない。すると、当然ながら日勤帯の入居者の様子がわからなくなる。夜勤を専門にしている介護職は別だが、こういうのは施設介護職としてのまともな働き方とはいえない。まともに働かされていないのだから、給与をたくさんもらうのは当たり前だろう。

30万円超えの勤務とはどんなものか

僕の知り合いの男性介護職で、たしかに30万円近く給料をもらっている人がいる。ボーナス分も含めれば、平均給与は30万円を超えるだろう。良い企業で働いているわけではない。むしろ逆である。常態化した残業&夜勤を月に8〜9回もする職場で働いている。本人が望んで残業と夜勤を増やしているわけではなく、同僚の介護職の経験年数が低く(だいたい2〜3年程度)、夜勤経験のない職員も多いため、夜勤に入れることができず、彼が夜勤勤務を肩代わりしているのだ。

しかも、職員が次々に辞めていくため、夜勤ができるまで教育を続けることができず、いつまでたっても彼の夜勤回数は減らない。彼は独身男性だからまだ月8〜9回も夜勤ができるのだろう。女性の多い介護現場では独身男性は貴重な存在である。女性はどうしても子育てとか、身内の介護(家に帰っても介護業務がある)のために労働時間が制限されがちなのだ。

彼の職場の夜勤は8時間勤務(9時間拘束)の夜勤である。だいたい夜の10時に入り、翌日の朝7時に終わる。僕はこの8時間勤務の夜勤も経験したことがあるけれど、こちらのほうが精神的にきつかった。夜勤明けの日が公休扱いになり、そして翌日は早番で朝7時には出勤しないといけないシフトが多かったためだ。

夜勤は一人だったので仮眠が取れるわけでもなく、明けの日はとうぜん眠い。そのため家に帰って寝る。数時間寝たとしても、起きたらもう休日の半分以上は終わっている。さらに、翌日も早番で早起きしなくてはいけないから、早く寝る。こんなだから休みと言っても実質的な休みにならなかった。リフレッシュするための活動がなにもできない。

でも、僕の知り合いの介護職は8時間勤務の夜勤の方が良いと言っていたので、これも人によるのだろう。僕は嫌だけど。だって夜勤を7〜8回もしてしまうと、実質的な休みなんて一日もなくなってしまう。1ヶ月の間、毎日まいにちかならず職場に顔を出すことになる。僕は夜勤明けの申し送りのときに、いつも思っていた。24時間もしないうちにまたここ(職場)にいるのか、と。これは僕にとってはきつかった。精神的に休まる日がないのだ。それが毎月続く。僕がこんな職場で働いていたら、数ヶ月で辞めると思う。

低い報酬で人材確保という矛盾

厚生労働省の平均給与30万円超えは嘘か、100歩譲ってもかなり歪曲した統計方法から出された結果であると思う。10人の介護職に聞いてみれば、おそらく9.9人まではそんなにもらえるわけがない、というだろう。そんな現場の実感から乖離した調査にどんな意味があるのか。世間に向けて、介護職の処遇(給料)は良くなっていると言いたいだけの印象操作に過ぎない。

そして、介護職が給料30万円もらうことは不可能ではないけれど、その裏には異常な職場環境があるということ。多い給料をもらうためには、きつい労働になるのは当たり前だ、という見方は当然あるだろう。でもそんな働き方を長期間続けることには問題があるし、女性の就労者が多い実態を考えれば、家庭を無視して働く「昭和の男」スタイルはそぐわない。

介護報酬が総じて低いことは誰でも知っている。だが、そもそも優良大企業なみの高い給料と福利厚生を望むのなら、介護の仕事なんて選ぶべきではないというのも、誰でも知っている。介護報酬アップはすべきだと思うが、昨今の社会保障情勢をみると、希望的観測は持てない。国も各企業も低い報酬で、なんとか人材確保するという、矛盾に挑んでいるわけだ。

働きやすい職場を作るのは各会社の企業努力であるし、介護を働きやすく、魅力的な仕事にするのは国の責務である。まあ一番重要な旗振り役の国(厚生労働省)が頼りない現状では、介護人材の不足もむべなるかな、ではあるけれど。

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