介護事業所の大規模化で介護職の転職問題は解決されるか その3

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前回からの続き。外国人介護職の導入の注意点について。今回は各論的に検討していきたいと思う。当然のことながら、外国人ということで言葉の問題が第一にある。インドネシアやフィリピンからの人材を受けいれた施設では、大きな負担を伴いながら日本語習得の支援を行っているようだ。

https://jicwels.or.jp/files/EPA_case_C_005.pdf

いくら優秀な人材とはいえ、介護の実務研修をしながら日本語を習得するのはそれほど簡単なことではない。日本に入国する前にいくらか日本語の勉強をしているとは思うが、高いハードルである。

日本語の微妙な言い回しの理解ができるか?

介護福祉士の筆記試験では難しい漢字にふりがなをふるなどの措置もとられている。よく言われるのは日本語はかな、カタカナ、漢字と使い分けているので難しいということだ。とくに漢字文化圏でない外国の人には漢字を覚えるのが難しいとされる。日本語は特殊だと言われるが、母音の数、文法から考えれば、それほど特殊なものではない。特殊なのはおそらく、日本語があまりにその場の状況に密着しすぎた言語であることだと思う。状況、あるいはコンテクストを離れると(とくに外国人には)日本語の意味がまったく伝わらない。

例えば「おれはカツ」、「私は玉子」という言葉だけを聞くとなんのことやらわからない。日本人なら「僕は親子」と続けるとなんのことか分かる人も出てくるだろう。外国人は「???」と不思議に思うはずだ。文法から考えとおかしい言葉だからだ。定食屋で丼を注文するシチュエーションを与えられて初めて「おれはカツ丼を注文する」、「私は玉子丼を注文します」、「僕が親子丼にする」ということだとわかる。

日本語の場合、主語さえ省略できるから困ったものである。カウンターでお店の人に「カツ」、「玉子」、「親子」と言えばいい。でもそういった状況が与えられていなければわからない。こういうのは介護現場でも普通にある。状況によって省略される内容が多い言語内容を理解し、さらにそれが使えるのかといった問題は大きいと思う。

記録をどうするのか?

上に書いたことと関連するが、それなりに日本語能力がかなり高くないと、介護記録が書けない。記録がないと何が問題かは、第一に介護サービスを提供した証拠が残らない。すると監査に入られたときに、つっこまれることになる。「この日の記録がないようですが・・・」なんてネチネチやられることになる。介護の専門用語もたくさんあるし、その職場内でしか通用しない言葉もある。

まあ普段の記録はだいたい定型化した文章で書けるので、たいした問題にならないかもしれない。でも、事故報告書とかになるとハードルがぐっと高くなる。日本人でも事故報告書を書くのはけっこう骨なのだ。また申し送りのときに利用者の変化の微妙なニュアンスを伝えることも難しいのではないだろうか。

最も重要な課題。受け入れ先の問題は?

もっとも重要な課題は日本側の受け入れ体制だ。現在のEPAは日本の人材不足解消のための制度ではない。EPAで来日した外国人は、3年以上施設で働いても最後に介護福祉士試験に合格しなければ、在留資格は与えられず、本国に帰らなければならない制度になっている(不合格でも最大1年の延長が可能になっている)。

冒頭に貼ったリンク先の施設の報告書を読むと、日本語教育の大変さがみてわかる。普通に勤務してもらっていると、日本語を習得する時間がとれない。夜勤もさせられない。介護施設ではまず夜勤からシフトを組む。日中の職員不足は早番や日勤の残業や、他施設からの応援などでなんとかなっても、夜勤だけは動かせないからだ。

日本語習得の難しさについては、僕の個人的見解ではなく、技能実習生の受け入れ組合である国際事業研究協同組合のサイトでも指摘されている。

日本語能力の不足
日本語能力試験(JLPT)N4相当の日本語能力で入国できますが、N4レベルでは介護現場で必要な日本語能力に不足があります。

実習1年後のN3取得が困難
実習1年後に日本語能力試験(JLPT)N3相当を取得しないと強制帰国となってしまいますが、N4レベルの日本語能力しかない技能実習生が現場で働きながらN3を取得することは著しく困難であり、9割程度の実習生が強制帰国になってしまう可能性があります。そうなりますと、多大な犠牲を払って日本に来た技能実習生だけでなく、受け入れた介護施設(実習実施機関)も人員計画に大幅な狂いが生じ、多大な損害が発生します。

介護実技能力の不足
介護実習制度においては、入国時に介護技術習得していることが求められません。しかし、日本語能力が低い実習生が日本において日本人介護教師から介護技術を取得することは著しく困難で、介護現場に混乱を招くことが考えられます。

国際事業研究協同組合  https://www.ibr-c.com/business/care/contents/

僕は介護実技能力についてはあまり心配していない。日本人に日本語で伝えても実技能力が高まらない人もいるし、ここらへんはセンスの問題である。上手くなる素質を持っている人はキチンと教えれば上手くなっていく。下手な人はどこまでいっても下手なままである。これは人間性とは関係ない。フルートを吹ける人は吹けるし、吹けない人は吹けない。その違いに過ぎない。don't you?

介護人材の地方的な偏りは解消されるのか?

あとは細かいところを指摘したい。EPA介護職の訪問介護が2017年4月に解禁されている。はずなのだが、その実態について僕は何も知らない。情報が出てこないからだ。何か情報を持たれている方がいれば教えて下さい。

一般的なことを言えば、ムスリムは宗教上、酒や豚肉食が禁止されている。日本酒や豚肉を使った調理は実質できないのではないか。食事ほど文化の違いが出るものはない。日本人の好みの味付けの料理ができるかどうか、食生活の違いは大きな問題だ。また外国人に車両の運転が可能かどうか(田舎では訪問先が離れているため車移動が必要)。特に雪国での運転をアジア人である外国人介護福祉士ができるだろうか。

在宅の場合、一人で訪問することになるが、緊急時の対応もまた一人で対応しなければならない。たまにだが救急車を呼ぶこともある(僕は1年に2回くらいは呼んでいた気がする)。他にもたぶんあるだろう。細かい部分を見ていくと、まだまだ乗り越えるべき課題が多い。

こう考えると、在宅介護サービスの外国人介護職はひどく限定的な場でしか働けないことになる。そこらへんをうまく回すのがサービス担当責任者の役割なのだろうが、彼女(男)らの負担がよりいっそう増すことは想像に難くない。

施設介護も、在宅介護もとなると、専門知識を持ち、日本語の能力があり、そして性格もよく、日本人の介護に意欲をもって取り組んでくれる。そして受け入れ先がキチンと指導できる。すべてがそろっていて初めて外国人介護職は本当の戦力になる。これが今の制度だ。かなりハードルが高いと感じるのは僕だけではあるまい。ここまで求めるなら日本人を雇用するほうが簡単じゃないかと思うのだが。でもそんなこと言ってられないから外国から介護職を呼ぼうとしているのであって。うーん。

介護人材の相対的不足と定着率の低さ

ちょっと視点を変えてみよう。今は求人を出しても人がこないとか言っているけれど、そもそもなぜ求人を出さなければいけないのか?施設サービスにしろ在宅サービスにしろ、サービス開始時には必要最低限の人員が配置されている。利用定員が増えていくにつれ、職員も増員されていく。ここまで介護サービス事業所が増えたことを考えると、最初に配置できる介護人員の数は足りているはずである。なぜなら足りていないと利用定員を増やせないから。そう考えると、途中で離職する職員が多すぎることが問題なのではないか?という課題に目が行く。

そもそも人がいないから指導をなおざりにするのか?指導をなおざりにするから人が足りなくなるのか?僕の経験から言えば後者だ。何度も指摘するけれど、これは外国人介護職を導入する施設の大きな課題だ。

外国人を導入しても、定着しなければ意味がない。でも介護現場の指導力不足を考えると、インドネシア人はシンガポールなど近隣のアジアの豊かな国やイスラム圏に流れ、フィリピン人は英語が通じるカナダなど先進国を目指す傾向が強まるかもしれない。中国人は自国の少子高齢化が迫っているため、人材を外に出させないかもしれない。こうして、多大なコストを払っても、外国人さえ日本の介護現場に定着しない結果になるかもしれない。

広く外国人を受けれてきた諸外国と日本とは国の成り立ちが異なり、外国人の受け入れには国内の雇用や治安、言葉の問題など様々な角度からの議論が必要だ。一方で技能実習制度の「介護」の追加は先走りすぎている感がある。そうはいっても成長が続くアジアでは、人材の争奪戦がこれからさらに激しくなっていく現実があるため、遅出しでは完全に負けてしまうことになる。ジレンマである。

そろそろ僕個人の結論を出したい。まず日本の高齢者や女性などが活躍できるようにすることが先決で、人手不足解消を唯一の目的として安易に外国人労働者を入れないほうがいいと思う。なぜなら、少子高齢化という深刻な事情と、グローバル化で激しくなる人材獲得競争の波の中で、日本が外国人パワーをどう生かし、発展の度合いや文化の違う国々とどのような共存関係を築いていけるのか?そのイメージがまったく浮かばない。規定の配置基準さえ満たせなくなっている現場にそんな論理が通用するか分からないけれども。

外国人介護職=労働力ではない。要は外国人とのつきあい方

介護はセメント袋をあっちからこっちに移動させるような単純労働ではない。もちろん。そしてまた、外国人を単純な介護「労働者」として見てもいけない。たとえ短期間だとしても、日本で一緒に暮らす「生活者」として彼らを捉えなければいけない。

単なる介護労働力として彼らを捉えると、解決困難なトラブルが起こるだろう。そして、けっきょく外国人介護職も現場に定着しないのではないかと思う。外国人介護職は転職しない(できない)だろうから、日本語能力さえクリアすれば定められた年数は同じ施設で働いてくれる。

でもそうして我慢して働いてもらったとしても、日本人介護職との間でストレスが生まれる。するとそれが火種になり、トラブルがおき、ストレスが増加する負のスパイラルにおちいる。するとけっきょく、外国人を導入したことによって日本人介護職のほうが辞めていく。こんな本末転倒がおこりかねない。この予想はけっこう当たるんじゃないかと思っている。なかなかに救いがない。

人材の定着率がいい介護現場はちゃんとある。逆に年中人材確保でヒイヒイ言っている現場もある。この違いの原因をきちっと抑えておかないと、いつまでたっても現場が抱える人材不足の問題は解消されない。don't you?

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