入門的研修ってなに?その意味について考えてみた

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介護福祉士は国家資格である。介護の仕事では知識はもちろん、技能も求められる。そのため、筆記試験に加え、実技試験も課されている(た)。両方共合格しないと資格はもらえなかった。筆記は通るけど、実技で落とされた、という人が何人もいた。

僕のときは、介護福祉士養成校(4年制大学)を卒業すると同時に資格が取得できた。一応学内で筆記試験はあったが、一発で合格したし、実技試験なんてものはなかった。なかなか牧歌的な時代ったと思う。そのころに資格をとっておいてよかった。

僕が介護福祉士の資格をとった後は、資格の仕組みがどんどん変わっていった。訪問介護員のことをホームヘルパーと呼ぶ人は多い。いわば訪問介護員の代名詞である。専門職の僕たちも実際にそう呼んでいる。しかしホームヘルパーという資格はもう新しく取得することはできない。資格の見直しにともない、廃止されたからだ。平成25年以前には「介護職員基礎研修」という養成システムがあったのが、これも廃止された(資格が使えなくなったわけではい)。

現在、訪問介護の仕事を始めようと思うなら、以下の2つのうち、どちらかの資格(というか研修)を目指すことになる。それぞれの位置づけについては以下の図を見たほうが理解しやすい。

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分かりやすくいうと、介護職員初任者件研修はかつてのホームヘルパー2級にあたる。実務者研修はかつてのホームヘルパー1級相当。その上に国家資格である介護福祉士がくるという寸法だ。

そして、図にはないが、平成30年からはこの一番下の位置に「入門的研修」が作られた。は?入門的研修?初任者のさらに下?これについては後述する。

介護福祉士の受験者が半分に激減!

2017年1月以降の介護福祉士国家試験から、受験資格として実務経験3年に加えて、実務者研修の修了が義務づけられるようになった。これに伴い、介護福祉士の実技試験が廃止された。分かりやすく言うと、一回こっきりの博打のような実技試験はなくなり、筆記試験のみになったけれど、最短でも320時間の研修を受ける義務ができたということだ。

介護福祉士の受験者は2015年度には15万2573人いたものの、翌年の2016年では7万6323人と半減している。2017年には9万2654人とじゃっかん持ち直したものの、今まで15万人前後の受験者がいたことからすると、落ち込みは深刻である。介護職を増やすことでやっきになっている国はこの現状をどう受け止めているのだろうか?

この衝撃を受けてか知らないが、国はさらにとんでもないことをしでかした。なんと、介護「初心者」研修のそのさらに下に「入門的」研修なんてものを位置づけたのだ。もうワケガワカラナイ。色んな意味で。

入門的研修とはいったいなんなのか

「入門的」研修とは何だろうか。「初任者」研修とは何が違うのか。今年8月4日になって厚生労働省が入門的研修のカリキュラムを発表した。

カリキュラムはトータルで21時間。3時間の「基礎講座」と18時間の「入門講座」に大別される。基礎講座では、サービスの種類や利用までの流れ、ケアマネジャーの役割、地域包括支援センターの取り組みといった制度の概略に加え、仕事に役立つ安全な体の動かし方などを勉強してもらう。一方の入門講座では、介護職の専門性や生活支援技術、認知症、老化、ノーマライゼーション、感染症対策などについて基本を教えるという

介護の「入門的研修」、トータル21時間 未経験者の参入のきっかけに… 厚労省 
介護のニュース JOINT https://articles001.joint-kaigo.com/article-6/pg0103.html

なお、18時間の「入門講座」の内容は、「基本的な介護の方法」が10時間。「認知症の理解」が4時間、「障害の理解」が2時間、「安全確保」が2時間とのこと。

僕は初任者研修・実務者研修の講師の仕事もしている。初任者研修では十分な受講者が集まらないところも多い。ホームヘルパーの資格ができた頃は、どの教室もいっぱいだったらしい。介護保険がスタート時、介護ブームがおきていたからだ。今はその頃の熱気はどこをさがしてもない。

対人援助職はみな一流でなければいけない

入門的研修の実施主体は都道府県や市町村(一部民間委託)で、無料で開催される様子である。無料ならまあ人があつまるかもしれない。でも、はたしてそこから介護の仕事に就こうと考える人間が何人生まれるのか、かなり疑問だ。無料ではなく、有料にしないと、モチベーションが低い人も引き寄せてしまう。今でも社会福祉協議会などが行っている介護教室となんら変わらないではないか。それに新しく予算をつけて行おうとするのだ。国はアホなのか?と思う。

言っては悪いが、入門者研修を受けたとしても、素人に数本毛が生えた程度の知識しか身につかない。なにせ研修時間が初任者研修の半分もない。初任者研修にしたところで3ヶ月の促成栽培である。認知症に関する理解についても時間が足りない。中途半端に認知症の知識をいれるほうが危険なのではないかとさえ僕は思う。養成施設で習う認知症の知識が現場でそのまま役立つつものでもない。

認知症で問題行動(今はBPSDとか言うけれど)が出る人にはさまざまな要因が複雑に絡み合っている。脳の機能的な問題もあるだろうが、それだけではない。本人の生活歴、現在の生活環境、本人をとりまく人間関係、持病の管理状態などなどを組み合わせて考えなければいけない。認知症の人たちの個人的な生活空間に入り込むのだから、専門職としての知識・技能、そしてプロ意識がないととてもじゃないが仕事なんてできやしない。

裾野を広げるのはいいとして、裾野ばかりが広くても本来介護の仕事に向かない人を引きせても無駄である。裾野は広く、上に登るに連れて高くなっていかなければいけない。山の頂上にいるのが介護福祉士、という具合だ。国はこれを「まんじゅう型」から「富士山型」の介護人材へと表現している。

僕は、こと対人援助職はみな一流でなければいけないはずだ、と考えている。医療における失敗は医療事故といった形で現れる。結果が目に見える。形として見える。検査すれば数値として出てくる。分かりやすいのだ。しかし、介護の失敗というのはわかりにくい。責任の所在が誰に、どこにあるかがわかりにくい。日常生活の変化はわかりにくいからだ。医療職は他人の命に責任を持っている。僕たち介護関係職は他人の人生に責任を持っている。

「まずは入門で多くの人に介護とはどういったものかを知ってもらう」、ということなのだろうが、介護の仕事は他人の人生を大きく左右する仕事だ。片手間でやってほしくはない。ましてや、介護施設で介護職員による虐待(いやもはや暴行事件)がニュースに取り上げられることが多くなった。虐待をする個人に問題のすべてを押し付ける気はないが、多くのバックボーンを持つ介護職が今後も増えていくことを考えると、なんでもかんでも入門させていいのか?という疑念は少しある。介護の仕事が合わないと思って離れていってくれるのならいい。でもそうじゃない人が現場にいつまでも居続けることになると、いろいろしんどい。

現役の介護関係職にレスパイトケアしたほうが人材不足解消になる!

これから介護福祉士を取りたい人にとっては、さらにお金も時間もかかるようになってしまった。実務研修の受講期間はだいたい6ヶ月はかかると思っておいたほうがいい。すでに初任者研修を終えている人は免除される科目があるので、これより少し短くなる。入門的研修を受ける人は、初任者研修の一部を免除される。こんな感じで、ハードルをどんどん下げているわけである。

入門的研修を修了した人たちが現場にどのような影響を与えるか現段階ではわからない。でも研修期間の短さと、介護人材をなんでもいいから確保したいという国の思惑を考えると、プラスの影響を与えるとは思えない。けっきょく現場に入ってくると、教育をしなければいけないし、きちんとした教育ができる余裕のある現場は少ない。だから人が辞める。また人手不足になる。新しく入ってきても教育している余裕がない。また辞める。こんな負のスパイラルになるわけだ。

国は垣根を低くして、少しでも介護職の流入量を増やそうとやっきになっている。もう必死である。でも行き着く先が現在の介護現場なら、いったん介護の仕事についても、どうせ離れていってしまう人が多いのではないか。結局の所、現状から何も変わらないことになる。

いっぽう、国は介護職の現場への定着率をあげるために、長く勤めている介護福祉士に8万円支給するだの、他職種より給料が高くなるよう処遇改善加算をアップするだのしている。そんな小手先のワザじゃもうどうしもようない、というのは介護関係者ならみんな知っている。

入門的研修に新たに予算を割くより、現役の介護職のレスパイト施策を国主導でやってくれないだろうか。介護報酬をいじれないなら、他の予算をうまくまわして。医療・介護従事者のストレスケアとして無料カウンセリングや整骨院受診時の補助とか。そちらのほうがよっぽど人出不足の解消に寄与すると僕は思うんだけどなあ。

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