介護事業所の大規模化で介護職の転職問題は解決されるか その2

画像の説明

少し前の介護系ニュースサイトに介護事業所の大規模化についての記事を見つけた。

・施設・事業所の大規模化の促進を 介護報酬による誘導も 財務省が提言
https://articles001.joint-kaigo.com/article-6/pg0110.html

・介護事業者の大規模化、経団連も提言 「スケールメリットは有効」
https://news.joint-kaigo.com/article-7/pg687.html

・介護サービス経営主体の大規模化、統合・再編は可能か 
http://www.care-mane.com/member/news/9396.html?CID=&TCD=0&CP=1

確かにデイサービスは多すぎるけれど

数年前に小規模デイサービス(一日の利用定員が18人までのデイ)が単位を減らされて実質的に中・大規模化しないと生き残れなくなった。ケアマネとしては小規模デイと聞けば、定員10名以下のデイをイメージする。そのミニマムなデイは、死刑宣告を受けたも同然である。僕が知っている限りにおいてだが、小規模から通常規模に変更した事業所がほとんどだった。そして今後は小規模デイは市町村が参入数を調整することになった(地域密着型サービスに移行した)。

下の図をみてもらうとわかるが、デイサービスの事業所数は介護保険サービスの中でも最多だ。実感としても確かに多いと感じる。

スクリーンショット 2018-07-31 9

国がそのように仕組みを作ったわけだし、だからこそ、色んな特色をもったデイが生まれたきたわけだ。小規模デイというのもその一つの類型だった。しかし、今後のデイサービスでは、少人数の利用者を少人数の介護職員できめ細やかにみる、ということが難しくなると思う。国が大規模化を誘導しているし、また事業所側も人手の確保(介護・看護職)が難しくなる。特にデイの場合は利用者数が少なかろうが多かろうが、看護師は1名配置すればいいことになっている。

そしてまた、この大規模化の流れは他のサービスにも影響を与えると想像する。具体的にいうと、訪問介護事業所や居宅介護支援事業所等にやってくる日が近いと個人的に思っている。

これからは小さい介護事業所は潰されていくのか?

これからは、スケールメリットが活かせる企業でないと、介護職員等にまともな給料が払えず、利用者側もまともなサービスを受けることができない状況になっていく、と僕は予想している。

ここでいう「まともな給料」とは、他産業と相対的に比較した場合のものだ。平たくいうと、他の仕事を蹴ってまで介護の仕事に就こうと思える額を提示できるか?ということになる。他産業でも少子化のために人材獲得に苦労しているのが現状だ。介護でも何をか言わんや、である。小さい資本しか持たない法人・事業所は、より大きな資本を持つ法人・事業所に飲み込まれ、統合されていくのはある意味必然だと思う。

もちろん例外はあるし、口で言うほど統廃合は簡単にいかないと思うが、「否応無しに」、という感じで進んでいくと思っている。逆に言えば、否応無し・選択の余地なし、という状況にならなければ、合併や統廃合は進まないだろう。

問題は上の記事にもあるように、舵取り役の国が大規模化に乗り気なことである。大規模化なんてこんなものは介護報酬のさじ加減次第で、どうとでもできる。介護保険サービスは保険金と税金が大量に投入されているので、どうしようもない部分もあるが、やはりシャクに触る。

現在は介護サービス事業所(法人)の規模は大・中・小といった感じでバランスよくバラけているが、10数年後からは中規模の法人は縮小し、大と小の両極端に分かれていくだろう(あくまで個人の予想です)。現在では、大規模な介護企業というと、ニチイ、ベネッセ、ツクイ、セントケア・ホールディング、パナソニックエイジフリーといったところがある。全国展開しており、いろんな意味で裾野が広い分、影響が大きいから、簡単なノリで事業を辞めるわけにはいかない。これまで築いてきたブランドに傷もつく。ワタミは損保ジャパンに事業を売ったが、ワタミは介護企業としての歴史が圧倒的に浅かった。

上に挙げたほどの大企業の他にも、介護=儲かると国に踊らされ、参入してきた企業はものすごく多かった。いや、今でもサービス付き高齢者向け住宅が雨後の筍のようにそこらへんに建設されているところを見ると、まだ勢いは止まっていないようである。でも、いちいち企業名はあげないが、儲かるんじゃないかと思って横から介護業界に参入してきた企業は、今けっこう痛い目を見ているんじゃないかと思う。

僕がかつて勤めていた不動産業を大本とする会社(関東を中心に介護事業を展開している)は、最初のうちは介護職員に対する待遇がたいへん良かった。何せ社員に子供が生まれると、その祝い金として100万円を出していたくらいである。今から10年前の話だ。でも数年のうちにその出産祝い金が30万円になり、今では無くなっている。

リーマンショック(ありましたね)のため、大本の不動産業の経営が不振になり、介護事業に金を回せなくなったからだ。好調だった不動産部門が、介護部門の社員の給料を補填していたらしい。詳しい給料の仕組みは知らない。でも、大本の不動産事業に打撃をくらい、余裕がなくなった。介護報酬だけでは、高い待遇で社員を養うことはできなかった。

上にあげた大手介護企業も、平社員の給料はとくにいいわけではないらしい。サービス利用者の数は増えていくが、かといって介護保険料を上げていくと制度そのものが崩壊する。純粋な競争市場ではないから、どんどんジリ貧になる。手のかかる利用者ははっきりいって邪魔になる。介護事業者によるクリームスキミング(事業者側が利用者を逆選択すること)は今でもあるが、それがもっと露骨になるのではないか?

そうなると、割をくうのは小規模で介護サービスを提供している人々である。彼らは介護をビジネスとか、生活の経済的手段と割り切って考えられない。介護の仕事は、自分の生き方、人生そのものであると考えている。そういう損得を考えずに介護する人が一定数いないと、本当の介護なんて成り立たないと僕は思っている。介護の本質はサービス(金銭を軸にした契約関係)ではなく、別のところにあると思うからだ。大規模事業所がクリームスキミングでいいとこどりをして、そこからふるい落とされた利用者を救済するのが小規模事業所になる。資本の差で、こんなふうにいいように使われれてしまうのが悔しいところである。

介護職員は転職せずにすむメリットがうまれる?

いっぽう、大規模化する中で、法人側のメリットはいくらでもある。スケールメリットが活かせる場面がいろいろあり、魅力的だろう。介護業界のスケールメリットは、人材が確保しやすくなる。これに尽きる。介護職の離職率は高い。それは給与や待遇が気に入らないからではなく、現場経営のあり方に問題があったり、同じ職場で働く同僚との摩擦が主な原因だ。

オープニングスタッフが大好きな一部の人々を除けば、多くの人は転職なんて面倒なことは避けたいと思っているのではないだろうか。と言いつつ、僕なんかは同じ職場、同じ職種にずっといるのが嫌で、転職を繰り返してきた口なのだが。

介護サービス事業所を多く持てば、それだけ同じ法人内で人を移(異)動させることができる。離職の理由が人間関係なら他の事業所に移らせることも可能だし、他の職種に変わりたければ、それも可能だ。家庭の事情で引っ越しするときも、全国に事業所を持っていれば引越し先の事業所に移せばすむ。そうすればせっかく育てた人材を放出しなくてすむ。だから僕はこれから人材コントロール部門とでも呼ぶべき機能がより重要になると思っている。

そうして経営理念や、介護サービスの方針が日々調整されていく。今は、現場によって、と言うか現場をコントールする人間によって介護の質がまったく異なる。力のある現場リーダーの個人的頑張りによって、現場の介護の質や、働きやすさが決まっているのである。

このような個人の力量だけに頼っていた仕組みが、組織がある程度(少なくとも今よりは)バックアップに入ることで、それが均されていくことになるはずだ。まあそうすると、現場が持つ不思議なダイナミズムは失われていくのかもしれない。平均化の代償だ。でも、利用する要介護者からすれば歓迎すべきことかもしれないなとも思う。まったくの運によって、自分の余生の質が決まってしまう現状から、脱却できる可能性が高まるのだから。

Aという現場では地獄の生活、Bという現場では天国の生活、なんてことが無くなることには期待したい。でも平均化した結果、Aでも地獄、Bでも地獄、なんてことにならないようにだけは気をつけなければいけない。介護サービスの質の底上げはどちらにせよ必要なのだ。これは他人事ではない。数十年後には現在の介護職が今度は介護される側に回っているわけだから。さてさて、どうなることやら。

でもデイの参入規制をしたり、介護事業所の廃統合をすすめるなら、それ以前に医療制度の仕組みを変えるほうが順序が先なんじゃないだろうか。例えば歯科とか。歯科医院ってコンビニの数よりも多いんだ(その割にすぐに予約が取れないのが不思議である)。この肥大した医療保険システムの見直がなかなか進まない裏事情については、僕は知る由もないのだけれど。

コメント


認証コード3054

コメントは管理者の承認後に表示されます。