要介護者のペット問題についての雑感

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高齢者、とくに要支援・要介護高齢者の飼っているペットが問題になることがある。とくに飼い主が介護サービスを受ける本人だったりすると、その本人が入院したり、何らかの理由で緊急ショートや施設に入所しないといけなくなった時、家に残されたペットを誰がみるのか、という問題が発生する。

いま高齢者の単身世帯がすごく多いので、とうぜんこういった問題がけっこう起こる。で、本来なんの関係もないケアマネ―ジャーやホームヘルパーたちが心を痛めることになるわけだ。

――利用者のペットについて困った経験がある −− 。82%のケアマネがそう答えたと伝えた。どんな状況だったのか尋ねると、

「入院後に在宅困難となり自宅に残されたペットの対応に苦慮した」

「入院中に預かってくれるところを調整したら料金を請求された」

「利用者がペットの世話をきちんとできなくなり、排泄物で清潔が保てていない」

といった声が寄せられたという。――

利用者の犬・猫、行き場ある? 取り残されるペットの問題 介護職ができること https://news.joint-kaigo.com/article-7/pg727.html

82%のケアマネがペット問題で困っている?

僕自身はケアマネージャーをしていた時に、こういったケースに出会ったことはない(でも関わりそうになったなったことはあるので後述)。
記事によると、神奈川県川崎市の地域包括支援センターが幸区や中原区、鶴見区のケアマネジャーを対象として行った調査で、82%のケアマネが利用者のペットについて困った経験がある、と答えたということだ。

82%ってかなり高いと思う。どんな方法で調査をしたのか知らないのだけれど、もし以下の認識が間違っていたら誤ります。関西の片田舎に住んでいる僕としては、川崎市ってけっこうハイソな人たちが住んでいる地域という印象がある。ハイソな人たちなので、もともと生活に余裕があり、高齢になってもペットを飼っている人が多いのではないだろうか?あるいは、息子や娘が親に血統書付きの犬猫をプレゼントするのが密かなブームなのかもしれない。そうじゃないとさすがに8割なんて超えないんじゃないか?

人間の寿命も伸びているけれど、犬猫の寿命も伸びている

仮に人間の方が65歳くらいで子犬や子猫を飼い始めたとしよう。還暦かなにかの祝いに息子や娘に、「ほら、お父さん(お母さん)が寂しくないように」とかなんとか言われて飼うことになる。「ペットの世話をしているとボケないよ」とか言われた人もいるかもしれない。

今の65歳なんてぜんぜん「老人」じゃないから、あまり先のことを考えずに飼ってしまうケースもままあると思う。でも、ペットである犬猫の寿命も伸びているので、仮に犬猫が20年生きれば人間のほうは85歳である。85歳と言えば、後期高齢者(75歳)をとっくに通り越し、片足の半分を棺桶につっこんだ立派なお年寄りである(いや、ホントですよ)。

まあ同じ85歳でも体力の個人差は大きいし、元気な人もたくさんいるのだが、僕の15年の介護職経験からいわせてもらうと、85歳を過ぎた人はいつ何が起きてもおかしくないのだ。本当に。

ちょっとした段差で転んで大腿骨転子部を骨折するかもしれないし、脳卒中を起こすかもしれないし、車を運転していて事故を起こすかもしれない。あるいは、自宅の湯船に入っていて、溺れてそのまま死んでしまうかもしれない。

自宅の浴槽で溺れて変死扱い

僕が担当していた要支援の利用者だった武田光子さん(仮名)の夫は、実際に自宅の浴槽で溺死した。夫は要支援でも要介護でもない、普通の高齢者だった。でも年は85歳を越えていたと思う(正確な年齢は覚えていない)。

この夫はかなりダンディーな人だった(つまり強面な人だった)。最初のうち、この人、元極道じゃないのか?と本気で思っていた。この人の前でしゃべると緊張してしまうくらいしっかりした雰囲気をまとった人だったのだが、3〜4年の付き合いのうちに、いつのまにかすっかり枯れたおじいちゃんになってしまった。見事な変化だった。

しっかり硬かった地面が知らないうちに地盤沈下を起こしていて、そこにすっぽり入ってしまったみたいだった。気づいたときには見事に枯れていた。要支援の人の所には3ヶ月に1回の訪問でいいことになっていて、武田光子さんは特に問題なく介護サービス(デイサービス)を利用していたので、とくに訪問はしなかった。3ヶ月後に自宅に訪問したときには、夫が別人になっていたわけだ。

いつもキレイに髭を剃っていた人が、顔の下半分に白い髭が伸び放題にして、室内でもいつもキメた服装をしていた人が、ゲゲゲの鬼太郎が着ているようなチャンチャンコなんか着て、しゃんとしていた背中は曲がり、口周りはシワシワになっていた。

光子さんも夫に手がかかるようになった、とこぼしていたけれど、そのあまりにも大きすぎる夫の変化にあまり頓着していないように見えた。今思えば、あの頃から光子さんの認知症はけっこう進んでいたのかもしれない。

この高齢夫婦は二人世帯だったが、小型犬を一匹飼っていた。犬種はコーギーか何かだったと思う(僕は猫派なので、小型犬はどれも同じに見えるのだ)。自宅のリビングには犬用のケージがあって、僕が訪問すると、光子さんはいつもそのケージに犬を入れた。

夫の変死後、妻の認知症が加速

僕が光子さんの夫の変化に驚いている間に、夫は浴槽で溺死してしまった。僕が訪問してから数週間後のことだった。夫は変死扱いになった。しっかり警察が入り、検死された。僕は偶然その場に居合わせた。光子さんの自宅前に救急車が止まり、ただならぬ雰囲気を周囲に撒き散らしていた。僕は警察が出入りしている横で、夫が白い布を全身にかけられ、ストレッチャーで運ばれていくのを見た。光子さんの大きなショックを受けているように見えた。当たり前だけれど。

その後、光子さんの言動の違和感が一気に加速した。少し前から物忘れが出始めてきたな、とは感じていたのだが、同じことを何度も言うようになり、薬を飲むことも忘れるようになってしまった。そこで僕は要介護度の変更申請を行い、要介護見込みで後任のケアマネージャーにバトンタッチしたのだ(地域包括支援センターでは要支援者しか担当できないため)。

武田光子さんの自宅は、僕の職場から近かったため、その後も犬の散歩をしている彼女の姿をよく目にした。僕のことはまだ覚えていて(名前まで覚えていたかは定かではないけれど)、顔を合わせると普通に挨拶をしてくれた。犬の散歩をさせていると、そこらへんにいる普通のおばあちゃんに見えた。一人で歩いていると、徘徊に見える。不思議なものだ。

高齢者はペットは飼うべきか?

自分よりも弱い存在がいると意識し、その世話をしなければいけないとき、認知症のために物忘れが進んでいる人でも、生活のペースを保つことができるケースが多いと思う。武田さんもちゃんと犬を毎日散歩に連れていくことで、生活のペースをつかんでいるように見えた。彼女の場合、足腰が丈夫だったという理由もあるけれど。

その頃の彼女はもう自分の夫や子供の名前さえ思い出せなくなっていたと後任のケアマネに聞いた。でも、自分が飼っている犬の名前だけはちゃんと覚えていて(こういうの悲しいですか?でも事実だったので)、散歩中もしょっちゅう犬の名前を呼んでいた。

認知症と言っても、全て平均して一律に忘れていくわけではない。自分にとって必要なことはちゃんと覚えているのだ。それが武田さんの場合、すでに生活を共にしていない息子や、浴槽で悲劇的に亡くなってしまった夫よりも、今現在いっしょに生活し、世話を焼かないといけない犬の名前だっただけなのだ。

武田さんの担当になってから、僕はずっと彼女のことをけっこう気難しい女性だな、と感じていた。あまり相性が合わなかったのかもしれない。けれど、飼っている犬の話題から話に入ると、けっこう順調にコミュニケーションを取ることができた。ペットにはそういう効用もあるのだ。

もちろん僕が猫派だということや、小型犬なんてどれも同じに見えるなんて、口が裂けても言わなかったけれど。

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