マエダズ・ラビリンス〜ふたたび、前田久夫さんのこと〜

僕がCSLabを立ち上げ、仕事内容に「介護施設との代理交渉」をいれたのは、ケアマネ時代に担当していた前田久夫さんという利用者の影響が大きい。彼については以前にも文章を書いているのだけれど、またウズウズともう一度書きたくなる不思議な人である。書いていると長くなったので、何回かに分けて掲載します。

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介護施設エージェント

僕の仕事の一つに本人・家族に代わって介護施設と契約交渉を行うものがある。代理人、横文字で言うとエージェント。代理する内容は介護施設に関わる全ての仕事だ。本人・家族と代理人契約が成立すれば、介護施設探しから、契約内容の確認、ケアプランのチェック、担当者会議の出席、記録のチェック等を行う。また介護とは日常生活そのものなので、外出介助といった直接的なサポートまで行う。

要介護者本人はもちろん、家族も介護施設との交渉や契約には不慣れだ。介護施設側は当たり前だが介護のプロである。利用者側とは介護の知識の質・量とも大きな隔たりがある。とくに施設サービスの中身はブラックボックスになっていて、実態がよけいに分かりづらい。この所が在宅サービスとは根本的に異なるところだ。

在宅の場合は担当ケアマネージャーがこのエージェントの役割を担っている。ケアプラン通りにケアが行われているかを最低でも3〜6ヶ月ごとにチェックし、毎回担当者会議を開く。サービス事業所が気に入らなければ、本人・家族の代わりに現在利用している事業所に解約通知を出し、新しい事業所を探して契約の段取りまで行う。

ケアマネージャーとサービス事業所が同一法人だと、自法人のサービスを解約するときに上から圧力がかかり、なかなか解約させてくれないこともあるだろう(これはもちろん違法)。しかし多くはケアマネとサービス事業所が同一法人というわけではない。ケアマネとサービス事業所はケアチームの一員ではあるが、同じ会社の同僚ではない。事業所が違うのが当たり前なので、物理的にも精神的にも距離が遠くなる。だから本人・家族の希望するサービス事業所を見つけ、またケア内容についても本人・家族の意思を伝え、調整していくことができる。

施設と在宅のギャップ

施設にもケアマネがいる。当然本人・家族の意思を現場スタッフに伝え、調整していくのが仕事である。しかし、施設ケアマネの場合はケアスタッフとの距離が近い。法人が同じなのでチームの一員であると同時に介護職達は自分の同僚である。また同じ建物内で仕事をしているので、物理的にも精神的にも距離が近い。

こういった要因から、在宅のケアマネよりも中立に身をおくことが難しくなる。また在宅とは違い、施設では提供できる介護資源の交換は不可能だ。介護も看護もリハビリも利用できるものは施設内のものだけだ。例えケアの質が悪い、相性が合わないといわれても、簡単に他の介護資源(職員)に交換することはできない。

こういった介護施設の特徴から、介護施設のスタッフと本気でやりとりすると、本人・家族側はどうしても不利になる。介護施設の多くは親切なスタッフ達だと思う。しかし意見を主張し、介護施設側と対等に交渉するためには、こちらにも相応の知識が必要になってくる。そうでなければ介護施設が提案する介護にただ従うしかない。

在宅介護の現場では、本人・家族とも「こんな介護を受けたい」と主張する人が多い。生活の主役はあくまで自分なのである。僕は施設介護から始めて在宅介護に移ったので、このギャップの違いに慣れるのに時間がかかった。苦情対応に泣かされたこともあるが、良くも悪くも彼らは「生活者」だった。

これが施設介護になると、みなとたんに口をつぐんでしまう。入居当初こそあれがしたい、これをしてほしい、と言っていた本人・家族も、じょじょに口数が減ってくる。本人は認知機能や意欲が低下して「言えなく」なるし、家族は自分がケアの当事者からはずるので「言わなく」なるのだ。もちろん余計なことを言われないほうが施設としては楽である。でもそれでいいのだろうか?

マエダズ・ラビリンス

前田さんは苦情の多い利用者だった。苦情というか、納得できないことについて自分が納得するまで粘る精神力がすごかった。話の内容を詳しく聞き、裏をちゃんととると、彼の話していることはまともだなものだと分かった。筋はちゃんと通っている。

でも(僕の知る限りにおいて)彼の言うことをまともに取り合う人はいなかった。医者はもちろん、弁護士さえも彼から手を切りたがっていた。原因ははっきりしている。それは彼の話が異常に長く、複雑で、半分は現実離れした話だったからだ。そんな前田久夫が作り出すマエダズ・ラビリンスに誰もが困惑していた。

つづく

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