見守り機器の導入程度で夜勤職員を削れるのか?

僕は2ヶ所の施設で介護職を経験した。特別養護老人ホームと単独型ショートステイ。この特養とショートステイを対象に、新たな介護ロボットの導入が検討されているらしい。それを知ったら黙っていられない。ということで、今回は介護施設の夜勤と、新しい見守りセンサーの関係について。

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最新の見守り機器は導入、移乗機器は未導入

先月の11月29日に開かれた社会保障審議会・介護給付費分科会で、特養やショートの夜勤職員加算の取得条件を最新の見守り機器の導入によって緩和してはどうかと提案があり、委員に大筋で了承された。政府の介護ロボット導入が加速してきた感がある。まあ「介護ロボット」なんて何か新しいもののように思えるが、ようは介護機器である。

機械浴や電動リフト、感圧の見守りセンサーなどはすでに介護現場で使っている。別段なにも変わるわけではなくて、新しく仕切り直して厚労省が予算編成したかったからだけだろう。そのため「介護ロボット」なんて「未来への希望を印象づけたい」言葉を使っているだけである。今回の検討会では見守り機器だけでなく、移乗機器についても言及された。だが移乗機器のほうの効果はまだ出せておらず、今回は見送られる形になった。

夜勤職員加算の条件緩和後は「0.9」人以上

夜勤職員加算は、夜勤時の職員を最低基準より1人以上多く配置している場合に取得できる。(1)最新の見守り機器を入居者の15%以上の割合で導入、(2)見守り機器について委員会を設置し、定期的に会議を開催する。この2条件に合致する場合に、配置人数を「0.9人」以上にすることができる。1割の削減効果だ。はたして1割程度けずったところで、現場にどの程度影響するのか僕には分からない。

僕自身は1人夜勤の経験しかない。施設内に他に夜勤職員がいても、僕が勤務していたフロアにはヘルプがなかった。もちろん明確な休憩時間なんかないし、業務もすべて1人でこなしていた。だから介護場面における1割削減の具体的な姿が想像できないのだが、金勘定だけに限っていえばこれは非常に単純な話である。

つまり、0.1人減らしていいわけである。人で考えるから分かりにくい。介護の現場は常勤換算なのだから、時間を金で考えよう。例えば時給で働いている夜勤専門の職員を8時間働かせなくても7時間で帰らせることができる。夜勤時の時給単価は高いがこれを仮に1500円すると、これが毎日、半年、一年分になると、54万7500円の経費節減につながる。見守り機器がいくらするのか僕は知らないのだが、数年くらいでペイできそうな金額じゃないだろうか?

転倒事故を起こしたときの責任の所在

転倒事故を起こした時、だれに・どこに責任があるかが問題になる。家族も強くなってきているから、責任の所在を問われる場面が増えてくるだろう。現在の1人夜勤の現場では何が行われているかなんて、夜勤に入っている介護職員自身にしか把握できない。

例えば普段介護を受けていない要支援2程度の入居者が自室で勝手に1人で起き上がり、机においているネガネを取ろうとベッドから立ちあがったが転倒、骨折した。

普段から夜間だけは1人で起き上がるような人ではなく、必ずナースコールで教えてくれたので、転倒の危険性は低いと認識している人だった。その時は自分でできると思ったのだろう。こういう状況で転倒した場合には施設側は責められる要因はあまりない。予測できない事故だった。

逆に施設職員の不注意・不作為によって転落・転倒事故をおこすこともある。昼間ならまず上司に報告。一緒に仕事をしていた人がいればその人からも話を聞くことができる。複数の人で事故の原因究明や対処にあたっていく。

夜勤は違う。とくに1人夜勤の現場では誰も助けてくれない。いざというときに頼りになる人は自分自身をのぞいて誰もいない。事故が起こった時にこの1人の介護職がすべて対処しなければいけないのだ。なにせ夜間はみな部屋で寝ているから、どんな状態にあるかを知るのは「音」だけだ。衣擦れの大きなおとで起き上がったなと気づいたり、センサーマットが鳴っている音に気づいたり、声をだして職員を呼ぶ人の部屋に訪室したりと、音がすべての契機になっている。

でも音だけでは限界があるのが事実だ。最新のセンサーにはカメラが利用者をシルエットに加工し、動きをおえるものがある。録画もできる。これがあれば、転倒したときの様子がわかる。施設にとっては責任の所在が明らかにできるし、家族にとっても真相がわかる。こうした体の動きが正確に分かる見守り機器(というか監視モニター)はこれから施設に流入してくるんじゃないだろうか?施設側にも家族側にもメリットがある。デメリットは利用者のプライバシー問題だが、要介護老人のプライバシー問題なんて転落・転倒事故にリスクにくらべれば軽く扱われそうである。

まるでウォーキング・デッド

見守り機器と言えば、すでに離床センサーやマットセンサーを導入している介護施設は多いはずだ。こんなものそうとう昔からある。これらはいずれも要介護者の体圧に反応する機器である。転落、転倒事故を防ぐために設置する。マットセンサーは足を床に置いたときに反応するが、圧がうまくかからなかったりして反応しない時がある。このあたりはやはり最新の感知センサーに軍配があがるところだ。

ところで、夜勤経験のある人ならこんな経験はないだろうか?転落・転倒の危険がある利用者のベッド脇にセンサーマットを設置した。利用者の能力を考えたら、必ずどこかを踏むから必ず反応するはず。フロアの端の部屋でオムツ交換をすませて廊下にでた。すると、向こうの端の闇のなかで動いている何かが見える。このフロアで歩いたり、動いたりできる人間は僕しかいないはずである。

フロアの端と端だし、暗いから人影しか見えない。遠目からみると、足を驚くほどゆっくりひきずりながら、行くあてがない人のように、ゆっくりと廊下をこちらにむかって歩いてきているようだ。

僕の姿を見つけてもまったく反応を返してこない。目がみえないのだろうか?こちらが声をかかても、相手からは「こんばんは」もなければ会釈もなければ、手をふることもない。肌は土気色をしているようだ。血色が良くないようだ。顔にも体にも無数の傷みたいなものが刻まれている。目を覗き込むとそこには虚無がある。自分がどこで何をしているか、まったくわかっていないのである。そうか、いつのまにか「ウォーキング・デッド」が忍び込んできたのだ。

どうしよう、記録棚の奥にショットガンがあったが、取るのに間に合うだろうか。それよりも非常階段ですぐに逃げたほうが良いんじゃないか。といったことが僕の頭のなかをぐるぐる高速回転する。相手の動きは遅い。もう少し間合いをつめても大丈夫だろう、と僕は考える。とりあえず、本当にウォーキング・デッドなにかを確認しておかないと。

フロアの端から真ん中くらいにくると電気が明るい。そこでそれが誰だかやっとわかった。ふだんは手引じゃないと絶対歩けない◯◯さんだった。5mくらいは自立歩行したのかな?
センサーを設置している部屋の要介護者が、音もたてずふらっと部屋から出て暗い廊下を歩いている。その姿を見つけてぎょっとした経験をもつ介護職は多いはずだ(もちろん僕にもそんな経験がある)。

ちゃんとセンサーマットを設置しているのに、何の音もしない。そういう予想もしないところでばったり遭遇するのって、言うまでもないがとても心臓に悪い。心拍数が90台とかを軽く突破する。もちろん「これコケてたらやばかったよな〜、危なかった〜」という気持ちが上乗せされているからだけれど。

国の本当の狙いは介護ロボットの世界市場への売り込み

厚労省が想定している「最新の見守り機器」には、赤外線や超音波、また画像を利用したセンサーがある。人の体をシルエットに見立てて、より正確に体の動きを追えるものもでている。いずれも体圧センサーより感知精度が高いとされている。

参考サイト(画像も) http://www.mhlw.go.jp/sinsei/chotatu/chotatu/wto-kobetu/2017/02/dl/wt0227-04_08.pdf

僕は、今回の介護機器と夜勤職員加算の緩和には裏があると思っている。厚労省としては夜勤職員加算をエサに全国の介護施設にセンサー機器を導入(購入)を促すことで、現場に実証実験をしてほしいのだろう。そうすれば厚労省が介護ボット導入にかかる予算を使わなくていいし、データ分析のために必要な分母数が多く取れる。各施設に見守り機器委員を作らせるのだから、その結果報告をもちろん吸い上げる。機器メーカー側は現場の声を反映させながら、よりよい製品に改善していく。

国はこの動向を高みで見物しつつ、開発中のセンサーで「本当に使えるセンサー」が何かを絞っていきたいのだろう。

理由?もちろん世界に売るためである。なにせ市場は高齢化している国すべてだ。欧州はもとより、アジア(特に中国)、東南アジアなどの国々が主なマーケットになると思う。莫大な収入が見込める世界市場だ。介護機器を開発している会社と官僚が裏でつながっていないわけがない。日本はとてもよい実証実験場なのだ。たぶんこれは事実だと思う。

感知センサー=見守り機器じゃないだろう

注意すべきは、見守り機器の精度が上がったとしても、介護職の負担が減るとは限らないことだ。「最新の見守り機器」と言っているが、これらはセンサー精度が向上しただけの単なる感知センサーに過ぎない。すでに現場で使っている機器と本質的に変わらない。その意味で「見守り」という言葉は本来使用すべきでないはずだ。添い寝介助でもしてくれるロボットがいれば見守り介助機器と言えるが、そんなのは先の話だろう。

単にベッドから転落を防いだり、利用者がごそごそしているのをみて「もう寝る時間なんだから、寝てくださいよ」なんて言うだけが見守り介助だと思ったら大間違いだ。事故を未然に防ぐ訪室や声掛け以上のことをしている。なかなか寝付けない人のそばで何もせずに付きそうのも立派な見守り介助である。他人の添い寝がないと寝付けない利用者には添い寝をした。

これも立派な見守り介助だと僕は思う。今だとそんな介護は不適切だ、という出てきてるかもしれないが、睡眠導入剤を飲ませて寝てもらうよりも、短時間の添い寝でお年寄りが寝れるならそれでいいじゃないか。安易な睡眠剤を飲ませることのほうが不適切な介護だ。

機械を使うか、使われるかは介護職(人)しだい

またこうした高精度感知センサーは、介護職によっては事故を事前に防ぐためだけの、単なる監視モニターになる可能性があると思う。けっきょくのところ、上手く使えるかどうかは介護職次第ということになる。その意味で、介護職に基本的な介護の知識と技術が必要なのは言うまでもない。

朝日が昇り始めたら、もうすぐ早番がくる実感が湧いてくる。あと少しでこの緊張から解放される。7時上がり(拘束9時間)の夜勤なら申し送りを済ませればもう終わり。9時、10時上がりの夜勤(拘束16時間)なら、朝食の介助とその後の排泄介助があるが、身も心も軽い。寝てないのと仕事が終わる開放感からテンションが上がっているのが自分でわかる。

転倒事故が起こった時の状況を詳しく精査するのはとっても大事なことになる。そのためにはまず事故を起こさない介護体制。そして事故をおこしてしまったらそのときの原因と状況を詳しく調べる。こうして考えると、最新の見守り機器はこれからの介護施設に必須のものになりそうな気がする。上でも書いたように、介護職によっては監視兼管理モニターとして間違った使いかをする人がでてくると思う。そこは正していかなければいけない。機械は便利だから使うんであって、機械に使われる側にならないように気をつけるべきだ、と僕は言いたい。

夜勤は独特な世界 要介護者も介護職も仮面をはずす

でもやれやれ、こんな機械がどんどん入ってくるようになると、なんだか夜勤が持つ独特の闇(見えない部分)がすべて明るみにでてしまうことになりそうだ。夜勤がかえかる闇の部分って僕は案外好きだった。普段はずっと見えるものに囲まれて過ごしている。何もかもが原因と結果の因果律に支配されて動いている。
でも夜勤のときは違う。絶対1人で歩けないと思っていたお年寄りが廊下をゾンビのように歩いている場面に出くわす。戦争中の血なまぐさいけれど、不思議な体験をおじいさんから聞くこともある。おばあちゃんとお茶を飲みながら世界情勢の話をしたりする。「中国とロシアはどこまでやろうというんだろうねぇ」みたいな。昼間の明るみのもとでは醸し出せない世界がちゃんと存在する。

不思議で混沌としていて、温かくて愉快だ。もちろんこの世界には危険も内包している。緊張感はつねに持っている。夜の怖さをいつも身近に感じている。

でも僕は夜勤のときが入居者と介護者がお互いの仮面をはずせる唯一の場だったと思う。そういう空間がこれからは無くなっていくのだろうか?それはとても残念なことだと僕は思うのである。

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