「自分で見抜くためのホントの事情」  山中由美 著

本のタイトルにあるとおり、老人ホームに入る予定の本人に向けて書かれた本である。著者は山中由美氏。もともと経営コンサルティング会社で有料老人ホームのマーケティング支援に従事していて、現在は高齢者住宅に関するセミナー・研修講師などを行うエイジング・デザイン研究所の代表。本は2013年発行で、掲載している情報は比較的新しい。

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「安心介護」なんて言葉にだまされない

この著者は徹頭徹尾、老人ホームのいうことをそのまま信じてはいけない、自分が入居する施設は自分の体と人生を預けるところだから自身で責任を持って選ぶべし、という主張を貫いている。読者によってはいささか突き放された感じをもつかもしれない。しかし僕としてはなかなか気持ちよく読めた。なかなかここまで業界の内部事情をスパッときったものは少ない。

「安心介護」とか「豊かなセカンドライフ」というポジティブな介護に対する期待感をバッサリ切り捨てている。世にあふれている広告の数ほど「安心介護」や「豊かなセカンドライフ」はありません、ということである。これが今までいろんなひどい現場をみてきた著者の誠実さなのだろうと思う。

本にはこんな例が出てくる。入居者を男女混浴させていた介護付き有料老人ホームがあった。この施設は他にも転落・転倒事故があったのに行政へ届け出ていなかった。職員が入居者の食事を急がせるために平手打ちしたり耳を引っぱたりしてた、というとんでもないところである。
行政から監査を受けた時に、ここの施設長は「年を取れば異性も色気も感じない。他の施設もやっている。入ろうとするのを止めるのは身体拘束になる」といったそうだ。

平成の時代にこんなことをしている老人ホームがあるなんて信じられない。けれど探せばあるのでしょう。この施設長の頭の中は昭和30年台でとまっているのである。確かにこの施設はレアなほうだと思う。でも絶対数的に少ないとはいえない。老人ホームには無届けのものもあるし、実に様々な種類、そして多くの数の老人ホームがある。大小差の差はあれ、男女を混浴させるといったことに似た不適切業務を行っているホームはたくさん存在している。

死亡事故を起こしても処分が軽い介護施設

この本のなかに出ている神戸市の特養の介護事故は、僕自身もじっさいに見聞きしたものなので、裏話を足して少し。

64ページ 神戸市の特別養護老人ホームの入所者の死亡事故。

2012年4月、神戸に開設したばかりの特養ホームで、オープン直後に相次いで2名が死亡。1名は2時間ごとにたんの吸引が必要でしたが、入所3日目の朝ベッドで死亡しているのが発見され、前日の22時以降吸引処置がなかったとのこと。もう1名は入所5日目に熱と嘔吐で入院し3日後に死亡。胃ろう(お腹に開けた穴から流動食を入れる)が必要だったものの、逆流しにくいものを使っていなかったと判明。これらの施設の対応と入所者の死亡が、直接関係するかどうか不明としながらも職員体制の基準値を満たしていないことがわかり、行政処分となりました。

これは明らかに開設してからお年寄りの入居スピードが早すぎたために、職員が対応できなくて起こった事故である。1年で100人の定員が埋まっていたということだから、現場はもうてんやわんやだったはずだ。そこに胃ろうやたん吸引といった処置に手間のかかる(そして下手をすると命にも関わる)人たちまできた。きちんと指導などされておらず、申し送りも中身のないものだったろう。これは僕の想像だけれど、まあ当たっていると思う。

高齢者はいろんな理由で亡くなる。それは仕方ないけれど、これは完全に介護施設のミスである。介護職の個人的なミスというよりも、経営者が入居者の数をもっとしぼり、職員に研修をしっかりしていれば起きなかった事故だ。

僕は当時、神戸市の居宅介護支援事業所に勤めていた。この事故がおこったあと、神戸市の集団指導に参加した。市の担当者はあの事故を起こした特養は本来なら業務停止処分ものである。しかし処分は新規入所者を6ヶ月受け入れ停止にすることしかできなかった話した。その理由については言わなかったが、施設を閉めてしまったら、すでに入所している100名の行き先が確保できなくなるからだろう。

在宅介護サービスは法律に違反すれば簡単に業務停止処分を受ける。他にいくらでも替えがきくからだ。だが入所施設はこうした点から考えても守られているわけである。この事故を起こした施設はいまも普通に営業している。介護について良い噂は聞かない。経営者が変わらないと、こういうところは抜本的に変わるわけがない。

サービス付き高齢者向け住宅

今後高齢者住宅の一角を担う、サービス付き高齢者についても少し詳しく書かれている。選択肢の一つとしてサービス付き高齢者が出て来る可能性が高いし、介護付有料老人ホームとは成り立ちが違うので、どんなところかを知っておくには良い内容である。まず「サービス」だが、いったいどんなサービスなのか。

安否確認サービスと生活相談サービス
「サービス付き」のサービスとはこの2つ。最低限この2つを満たしていればサ高住として登録ができます。「日中」つまり9時〜17時、ヘルパー2級以上の資格を保有するものが常駐していればいいのです。夜間は緊急通報ボタンを設置し、緊急対応できる仕組みが必要ですが、24時間人員配置が義務付けられているわけではありません。安否確認とは「見かけないけど自室で倒れていないか」など、簡単に言うと「孤独死」していないかという確認でしょう。生活相談員は、介護サービスや医療の相談が主なことになるでしょう。

サービス付き高齢者向け住宅の最低限そろえておかなければいけないのは上の引用文の「生活相談員」と「安否確認」のみだ。昼食を提供しているところが多いが、すべてではないことを覚えておこう。またプラスアルファでいろいろなサービスを行っているサ高住もある。買い物先までバスで送迎してくれたり、建物も高級有料老人ホームみたいなところもある(中にはとうぜんダークスーツに白手袋のコンシェルジェがいる)。

人は自分の介護の備えなんかしない

ある程度の年になれば介護に備えることはあたりまえ。でも世間の大多数の人は備える気持ちもなければ、必要性も感じていない。僕は施設、在宅、両方の現場で介護で大変な思いをしている家族をたくさん見てきた。いざ介護となったときには、何しろわからないことばかりだから右往左往し、ひどいのは入居できれば(本人の意向なんて無視で)どこでもいい、なんてことになる。

60代でとつぜん脳卒中を発症した、というようなケースはとうぜん介護について備えているわけがない。こういうのは仕方ないと思う。けれど、道で転んで足を折って要介護になった85歳の女性(独居)はこう言った。「自分に介護が必要になるなんて思ってもみなかったわ」。
その後、家族と病院関係者と、僕(ケアマネ)がいろいろ動いたのはいうまでもない。

「介護は専門家に。家族は愛情を」。僕はこの言葉が嫌いである。概念も嫌いである。できればコンクリート詰めにして、日本海溝に沈めてしまいたいとさえ思っている。この言葉を作ったのは「介護保険」である。家族が担うべき責任について、その所在を曖昧にした。介護保険はいくつもの問題を作ったが、これが最大の害悪だったと言えるかもしれない。

ホームに家族が面会に来た。ベッドに寝ている入居者に家族が来たことを知らせに行くと便臭がした。下剤を何回いれてもでなかった便が10日ぶりに出ていた。衣類やシーツにも便がだらだらもれているはずだ。全更衣、ベッドシーツのそう取り替えである。介護職は便が出たのでオムツ交換しますと家族に言う(下半身がウンコまみれで衣類まで汚れているとは言えない)。家族は食堂でテレビをみながら「遅いなぁ」なんてぶつくさ言いながら待っている。ちょっとイライラしているかもしれない。でもオムツ交換している介護職は孤軍奮闘中なのである。

1人で便のついたズボン、スボン下、靴下を脱がし、便の海になっているオムツをもれないように巻く。床に落ちたらいけないので新聞紙やシーツの用意もしておかなければいけない。上のシャツにまで便がまわっていたらさらにシャツも更衣しなければいけない。ベッドシーツも汚れているから交換である。シーツの下に敷いている防水シーツも濡れている。ああ、神様。

お年寄りをベッドに寝かせまま交換するか、一度車椅子に乗せるか考えるし、部屋の外では家族が待っているし、家族がこの部屋に入ってきた時に便臭がすると何を言われるかわからないし・・・といったことが介護職の頭のなかでぐるぐるまわる。

けっきょく着替えたお年寄りを車椅子に移らせ、新しいシーツをセッティングし、家族にオムツ交換が終わったことを告げた。家族は時間がかかったことにイラついていたが、介護施設に預けているので、強いことはいえない。親に向ける顔は満面の笑顔である。それでも介護は専門家に?家族は愛情を?。

閑話休題

本テーマにはあまり関係のないことを書いてしまった。でもついでだから、すすめてしまおう。上の事例で問題を感じて欲しいところは1箇所だけである。わかるだろうか?

10日ぶりの便秘が出たのに介護職も家族もそのことを共有していない。家族の愛ってなんだろうか。下剤を大量投入され、大便失禁する親の状態を知らないふりすることだろうか?介護の専門ってなんだろうか。目の前のオムツ交換を素早く行ってそそくさと「家族の時間」の外野にいくことだろうか?

最期のチェッカーは自分

なんか本のテーマから離れてしまったかもしれない。けれど、この本は自分で終の棲家を探す人のための本である。自分で老人ホームを探すということは、自身の老病死のことを考えている人々だということだ。ということでつじつまがあった。

本にはかなりの確率で経営状況をみぬけるチェック方法があるらしいので、ここに列挙したい。

・入居率
著者は入居率80%以上を維持しているホームなら経営的に安定している会社だとしている。有料老人ホームなどは民間機病なので倒産する可能性がある。もし倒産すると、最悪退去するハメになる。また入居率が高く経営が安定しているところは介護職員の質も(逆に比べれば)期待できる。

・長く住んでいる人が多い
定着率が高いということは入居者の不満度が低いということ。これは特養には当てはまらないかもしれない。お金があって転居することに支障がない人たちにはそうだろうけれど。僕としては定着率を聞いた後に、退去時の理由を聞いてもらいたい。病院が多いか(とくに精神科)、自宅に戻った人はいるか、特養に移った人は?この退去理由を聞けばだいたいそんな最期を迎えるかわかるものだ。

・従業員の離職率が低い
これはとくべつ説明しなくてもいいと思う。田舎的な施設で、30年前から介護リーダーが同じでボス化しているようなところがある。これはいくら介護職が辞めないといっても、刑務所よりたちが悪いのでけっして近寄ってはいけないところである。そういうところだけは気をつける必要があるが、普通は職員の定着率が高い所は連携がしやすいし、研修する余裕も時間もあるところだと思う。従業員がすべて仲がよいかどうかというのはまた別の問題だけれど。

・できないことをちゃんとできないという
自分の施設の介護の弱い所を把握し、説明することができるか、というところもポイントだ。入居相談をするときは相談員と呼ばれる人が窓口になると思う。真剣に入居を考えているときは介護主任にも同席してもらう。そして「ここの介護チームで自信のない介護とはなんですか?」と聞いてもらいたい。たいていのところは絶句すると思う。説明しようにもしどろもどろになるはずだ。しかし、この質問にしっかりとした根拠と、さらに今後の改善策を出してくれるところはかなりよいところだと思う。

若い人には将来の、高齢者にとってはすぐ目先の介護だが、こんなもの誰も考えたくはないのだ。そんなものよりハロゥインやクリスマスや正月のお年玉のほうを考えていたい。これは人間の本能だと僕は思っている。誰も老病死についてみたくないし、ききたくないし、話題に出したくない。日曜日の晩御飯に一家団欒ですきやきをつついているときに、老人ホームに入っている要介護5のおばあちゃんのターミナルケアの話題はでない。つまり、そういうことだ。

でも最低限のことを知っていないと''''いけない。内容はやや辛口だけれど、今日取り上げた本は将来介護が必要になった人にはとても役立つと思う。

本を購入したい方は もも編集室 ℡:075−212−1266
URL http://www.momo100.net/index.html

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