来年から訪問介護員の資格が規制緩和。影響は?

訪問介護のことでちょっと気になるニュースがあった。11月1日の社保審・介護給付費分科会で、厚生労働省は来年度から生活援助を行う場合に限り、資格要件を緩和する方針を示した。これまでより簡単で、より短い研修を用意し、それを受ければ訪問介護ができるようにするとのことである。

すでに総合事業という最近はじまった制度では、要支援者の訪問介護が規制緩和されている。これは要支援だけが対象だが、国は給付を抑えたいためにできれば要介護にも拡げたい。そのためのさらなる追い打ちである。

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来年から介護の資格がなくても訪問介護が可能になる?

訪問介護は介護の資格をもった介護職(初任者研修終了者、介護福祉士など)が自宅に訪問し介護を提供するサービスである。サービスの中身は家事を行う「生活援助」と、食事・入浴・排泄などの介助を行う「身体介護」に分かれている。

生活援助(家事援助)と身体介護では報酬単価が違ったり、生活援助を提供する場合はケアプラン用紙にその理由を特別に記載しなくてはいけない(独居のため・家族が家事を行えない)など、同じ訪問介護にもかかわらず、生活援助と身体介護では取扱いが違う。生活援助とはつまり食事作りや掃除などの家事にすぎないから、身体介護より専門性が低いという風潮があるからだ(現場をわかっていない人がそう言ってます)。

先日も書いたけれど、国はしょせん介護を経済(お金)の観点からしかみない。訪問介護の費用額は2015年度でおよそ9300億円。要介護認定者は増加していくから、訪問介護の費用が今後も増えることは確実だ。そこでどうするかというと、小学生みたいな発想を持ってきた。介護の資格を持っている人が訪問介護をすると報酬単価が高い。身体介護は専門的な技能が必要だからそのままにして、生活援助は素人さんにまかせよう。それで生活援助の報酬単価を低くすればいい。という感じである。

ホームヘルパー3級が復活

いわゆるホームヘルパー(訪問介護員養成研修)の資格は今では初任者研修というものに置き換えられている。このホームヘルパー資格には1級〜3級まであった。1,2級は生活援助、身体介護の両方ができるが、3級は身体介護はできず、生活援助のみとされた。3級は一番研修時間が短いため、身体介護の技術まで追いつかないから、という理由である。

厚生労働省は一度捨てたこのホームヘルパー3級資格に相当するものを復活させる気でいる。この新たな研修は来年度の初っ端から実施する方針という気の入れようだ。カリキュラムでは認知症に関する知識や観察の視点の修得を重視するとしているが、詳細はこれから詰めて年度内に固める。

生活援助に特化した内容とするため、既に導入を決めている「入門的研修」や総合事業の研修とは別に設けるという。研修を受ける対象者は子育て中の人や中高年らしい。この安易な考え方がもうすごすぎる。初任者向けの研修が3つも4つも存在することになり、もうわけがわからない。研修を受けるほうも困るのではないだろうか?国は介護職の資格は最終的に介護福祉士を目指してください、とかなんとか言っているけれど、全員が取得までに金も時間もかかる介護福祉士を目指すわけがない。複数存在する中途半端な介護研修の着地点がぜんぜんわからない。

規制緩和して本当に訪問介護の担い手は集まるのか?

国は一つには介護人材を補充したくてこんな策をたてたわけなので、人が介護現場に集まりさえすれば成功と言える。しかし、僕はそれほど簡単なことではないと思っている。まず、サービス内容を生活援助だけに限ったとしても、また老人の介護現場だけに絞ったとしても、相手は海千山千の輩である。もちろん認知症の人もいる。認知症についてちょこっと研修を受けたくらいで対応できるとは思えない。しっかり介護の仕事をするつもりの人なら、最初から初任者研修や実務者研修といった一段階上の研修を受けるはずだ。そうでない人は、アルバイト感覚で介護の現場に入ってくる人々ということになる。

また高齢者は言うに及ばず、中には65歳以前の人もいる。難病など特定の病気にかかった人々は高齢者でなくとも介護保険の利用者になる。その病気に関する知識はとうぜん必要になる。なぜかというと、利用者は自分の病気のことを知ってもらいたいからだ。まだ若くして介護に頼らなくてはいけなくなってしまった。その不幸と不甲斐なさを誰かにぶつけたがっている利用者は割りといる。訪問介護員がその受け手の役割を担っている場合も多い。けっこう理不尽なことを言われたり、されたりする。そんな訪問介護員には、利用者理解の視点が不可欠になる。そんなものが家事代行のアルバイト感覚で来た人に求められるだろうか?

また身体介護のほうが専門技術が必要という風潮があるが、僕の経験では利用者から苦情がでるのは生活援助のほうが多い。身体介護のやり方を理由にヘルパーを交代したケースはあまり聞かないが、掃除のやりかたが気に食わないなんて理由でヘルパー交代を申し出る利用者はけっこういる。利用者側がホームヘルパーを家政婦扱いしている例もあると思うが、根本には自分の生活に他人が入ってくることの自己防衛本能が働いているのだと思う。

掃除のことでクレームを入れてくる人は、それまで自分自身でとても綺麗に掃除していた人が多い。人は自分を基準にして物事を判断するものだから、ヘルパーの掃除のやり方が自分の基準に合わないと気に入らないのである。もしヘルパーの掃除の仕方に妥協してしまうと、自分が積み上げてきた生活そのものを崩すことになる。

僕もケアマネとしてクレームを聞いていて、介護が必要な生活になったのだから掃除くらい目をつむれば?と思うこともないではなかった。しかし、本人にとっては自分のアイデンティティー(プライドともいう)を守りたい防衛反応なのだから、それを無下にするわけにもいかない。じょじょに人に頼る生活に慣れていってもらわないといけない。軟着陸すれば機体へのダメージは少ないが、勢い余って着陸(墜落)すると機体が損傷してしまう。一度損傷したアイデンティティー(プライド)を修復するのはけっこう大変なのだ。

どちらにせよ、他人の生活の場に入っていくことになるので、高いコミュニケーション能力が必要になる。介護保険でやるからには法令の理解もある程度必要になる。ここらへんのことはすべて事業所が指導しないといけない。簡単なアルバイト感覚の人が、介護が必要なお年寄りの家への訪問が続けられるだろうか?それほど甘くないと僕は思う。利用者の中には常識的な人もいるけれど、中には一癖もふた癖もある妖怪变化が存在する(言い過ぎ?でも本当のことだもんなぁ)。

国が「訪問介護サービスを安価に供給できる」という目論見で規制緩和しても、じっさいにやる人間は「意外と大変だった」、という理由で長続きはしないと思う。そんなの今の介護職の現状をみればわかるはずである。

利用者や介護事業所への影響は?

介護給付費をおさえたいために、ホームヘルパーや初任者研修よりも下の資格(職種?)を作っていく。安価な人的資源でまかなっていく。僕は今回のような規制緩和は訪問介護員のレベルを低いほうに引っ張ることになると思う。まともな訪問介護事業所の人たちは、生活援助サービス時にも利用者をちゃんと観察してるし、利用者の生活全体を支える視点を持っている。訪問介護員という仕事にプライドを持っている。生活援助、つまり家事代行だけを行うヘルパーなど訪問介護事業所側もけっきょく使えない人材と判断するのではないだろうか?

しかしそんなこととは関係なく、ゆくゆくは生活援助サービスは完全に介護保険から切り離されるだろうというのが僕の予想である。利用者は介護保険が使えないので生活援助を自費でまかなうことになる。でも自費でまかなえない人はどうなるのだろう?ちょっと話がとぶが、そんな人は現在のサービス付き高齢者住宅のような施設に入居しなければいけなくなるだろう。そこで老人の生活を一元管理していくのだ。介護施設から在宅へ、そしてまた介護施設へ、という流れが数十年後にはスタンダードになっているかもしれない。

厚生労働省はなにを考えているのか

今までの話の腰を折るようで悪いが、例えば介護福祉士の資格を持っているから専門的なケアがちゃんと提供できる人、という保障はない。介護福祉士に比べると資格としては劣るけれど、よい介護をする人はちゃんといる。気がつく人はちゃんと気づくし、そうじゃない人はそうじゃないのだ。利用者がそんな良い介護職に巡り会えるかどうか、これはもう運としかいいようがない。

確かに運としか言いようがないのだけれど、良い介護職が多ければ、良い人に巡り合う確率は高まる。だから介護人材を純粋に増やす方策と、妥協しない教育を行うこと、この2つを進めていかなくてはいけないと思う。

別に介護業界への扉を広く開けることに関しては反対しないけれど、それで訪問介護を安価にまかなえると思っているなら、またつまづきますよ、厚生労働省さん。そういうつまづきはたくさん経験してきたと思うんだけどなぁ。

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