4000万円も勝手に引き出しておいて「経済的虐待」ですまされる理由

僕は神戸に6年ほど住んでいたことがあって、愛着も感じている。だからニュースに「神戸」の文字があるとついつい気になって読んでしまう。

神戸市保健福祉局高齢福祉部介護指導課は10月1日、介護支援専門員を担当していた高齢姉妹利用者の預金口座から計約4,000万円を無断で引き出すなど経済的虐待をしたとして、同市東灘区内の有限会社オネスト(馬越博邦社長)が運営する「居宅介護支援事業所オネスト」(馬越美智代管理者、同市東灘区住吉南町2-7-17)の事業所指定を取り消した。

ケアマネタイムス 【経済的虐待】神戸市「居宅介護支援事業所オネスト」取り消し
http://www.care-mane.com/member/news/8712?btn_id=news-list&CID=&TCD=0&CP=1

ケアマネなどの専門職が担当利用者のお金を横領するニュースをときどきみるけれど、今回のこれはかなり悪質なほうだと思った。経済的虐待というより、もう犯罪である。でもこれが犯罪にならないのは要介護高齢者が置かれた特有の事情のためだ。

画像の説明

認知症の独居高齢者にとって在宅生活はリスクだらけ

頼れる家族・親族が近くにいない認知症の独居高齢者にとって、在宅生活はリスクだらけのシロモノである。独居だけでもリスクなのに、そこに認知症が加わる。でも実はそんな在宅高齢者はかなりの数にのぼる。世間の人にはあまりそういうことが見えないだけである。

まず火の不始末を心配しなければならない。ストーブはあぶないし、エアコンは電源のオンオフができないので冬でも暖房を使えない人がいる。そういう人は布団にくるまればしめたもので、寒くても判断力と感覚が低下しているから暖をとらずにいることもある。

外に出て迷うことも多い。認知症だから何もかもわからなくなるわけではなくて、慣れた道なら問題なく行って帰ってこれる人はたくさんいる。しかし少し道をそれるととたんに方向感覚を失い、迷ってしまう。ヘルパーが訪問しても家にいないので、介護関係者全員で探す、ということもときどきある。

健康管理も一般の要介護高齢者より気をつけなければいけない。室内で転倒したり、脱水をおこして人の助けが必要になったとき等に適切に状況判断を行い、外部に連絡できるかどうかも不安がある。

そしてそれなりの財産を保有している認知症高齢者にとって、在宅生活はリスクが高い。高齢者を狙った悪質なリフォーム、訪問販売があとを絶たないからだ。

僕が担当していた利用者の人の話である(その人には認知症はなかったけれど)。スーツ姿の男が1人、貴金属の買い取りにきましたと玄関口に来た。その男は利用者宅に強引に押し入り、タンスの中を物色し、宝石類を見つけた。その宝石類を勝手に値踏みし、二束三文で買い取っていったということだ。押し売りでなく押し買いである。こういう場合はどうにも対処のしようがない。

老人側がお金を受け取らなければ家宅侵入、窃盗、うまくいけば恐喝で警察に被害届を出せるもしれない。でも相手はプロである。つかまらないギリギリの線で行動しているに違いない。こういう高齢者を狙った犯罪行為から財産を守るために成年後見制度がある。

しかし、今回はこの後見人が財産を搾取する側にまわったケースなのだ。救いがない。

馬越管理者は2004年から神戸市内でそれぞれ一人暮らしで別々に住む80代姉妹担当のケアマネジャーに就任。うち被害者女性の姉は2010年2月に認知症高齢者「日常生活自立度IIIb」と診断され、介護保険施設に入所していた。馬越管理者はケアマネ担当の立場を悪用し、2011年にかけてこの姉の預金口座から約1,000万円以上引き出し、姉の自宅を女性名義に変更し売却。そのご妹とは2013年に養子縁組み(訴訟により無効確定)し、生命保険金の受取人を馬越管理者に変更。預金口座から3,000万円を引き出して、馬越夫妻が管理する貸金庫に保管したほか、自宅の所有権を馬越管理者に移させたという。

実はこの妹の方には馬越管理者の夫が任意後見人についていた。夫は馬越管理者がケアマネをしている有限会社の代表である。
この夫が任意後見人として財産管理委任契約を締結していて、自宅の所有権移転や生命保険の受取人を変更するなどやりたい放題を行った。つまり妻(ケアマネ)単独の行為ではなく、夫(任意後見人)との連携技だったわけだ。

ちなみに「日常生活自立度IIIb」というのは認知症のレベルをあらわすもので、IIIbはかなり重度の認知症である。自分の意思を他者に伝えることはほとんどできないレベルだ。

詐欺罪にならないのか?

今回のケースはかなり悪質だし、引き出されたお金もかなりの額になる。そこで犯罪行為の詐欺にならないのか?と思って調べてみた。詐欺が行われたと立証するためには、以下の4つをすべて満たす必要がある。

1.他人に対して騙す行為をする
2.相手方が騙される
3.相手方がお金や者等を出す、借金を帳消しにする
4.犯人等が財物や財産上の利益を取得する

このうち3、4は立証できるが、1,2に関しては難しい。もともと騙す意思があったかどうかを立証するのが難しいので、詐欺罪は被害届、あるいは告訴状が受理されにくい。相手は財産管理について委任契約をとっている任意後見人である。財産を動かしたことについて、なんとでも言い抜けができる。

それに詐欺を立証するためには被害者側が証拠を用意しなければいけない。判断力の低下した高齢者にそんなことができるわけがない。警察も立件できるかわからないものに首をつっこみたくない。

だから僕は詐欺ではなかったと思う。なぜならだますまでもなく、お金を自由に引き出すことができたから。そう、詐欺でさえない。たいへん悪質な「搾取」である。

また重度の認知症があった姉に成年後見人の申し立てをしなかったのは意図的なもののような気がする。なぜかというと、すでに認知症で判断力が低下している人には任意後見契約はできない。法定後見の申し立てが必要で、権限は裁判所にある。後見人も裁判所が選任する。馬越夫婦には本人と利害関係があるから、法定後見人には選任されなかっただろう。それを見越して後見の申し立てをしなかったのではないか。

これに法律的に対抗するためには、今のところ「高齢者虐待防止法」の経済的虐待を持ち出すしかないのだ。

法定後見と任意後見の違いとは

任意後見人は自分自身で後見人を選ぶ制度である。だから信頼できる人を選んでいるという前提があるので、本人と後見人との間で委任契約が成立する。委任契約の内容は法定後見とは違い、自由にとりきめることができる。本人に判断力があるからできる契約である。

法定後見の場合はすでに認知症などで判断力が低下している状態のため、後見人は利害関係などを考慮し、家庭裁判所が選任する。親族がいても家族が後見業務を行うことが困難と考えられる場合は、専門職が選任される。

例えば不動産資産が多く、その管理に専門知識が必要なケースや、被後見人が相続人となっていて相続問題が発生するケース、本人の身上監護上の課題があり、福祉の専門知識が必要なケースなどである。

任意後見監督人はつかなかったのか

任意後見がはじまるときには任意後見監督人がつくことになっている。任意後見監督人とは、任意後見人が任意後見契約の内容どおり適正に仕事をしているかを、任意後見人から財産目録などを提出させるなどして監督する人のことである。

任意後見監督人の仕事は財産を扱う仕事なので、本人の親族等ではなく、第三者(弁護士、司法書士、社会福祉士等の専門職や法律、福祉に関わる法人)が選ばれることが多い。

今回の件で、妹の任意後見がすでに開始されていたかどうかはわからない。でもたぶん任意後見は開始されていなかったのだろうと思う。任意後見は本人の判断力が低下した場合に家庭裁判所に後見開始の申し立てを行う。原則としてはそこから後見業務がスタートする。

しかし、任意後見の場合、本人がまだ認知症になっていなくても、一定の範囲の行為を代理して行う権限を付与することができる。公証人が作成する契約書でその行為を決めることになる。

本来、認知症で判断力が低下していなければ他人に頼む必要はない。しかし、高齢者の場合は体の機能が衰えていたり、認知症でなくても書類上の難しい手続きができなくなっていたりする。このような時、自分に代わって手続きをしてもらう(代理行為をする)人が必要になる。家族ができれば家族が行うのだが、遠方であったり仲が悪かったりすると他人に頼む必要がでてくる。

このような場合、代理権限を付与する委任契約を締結し、それを公正証書にしておく。ただし、この契約は任意後見契約と一緒に契約しなければならず、委任契約のみを公正証書として作成することはしない。たぶんこのケースでは任意後見は開始されておらず、代理行為を行ってもらうよう委任契約していたのだろう。そのレベルでは任意後見監督人がつかず、任意後見人の行為について誰もチェックする人がいなかったのだと思う。

処罰の理由は「経済的虐待」と「忠実に職務を行う義務違反」

上に書いたように今回のケースでは詐欺や窃盗では立件できない。司法や警察で処罰できないとすれば、行政として処罰を与えるには介護保険法にのっとるしかない。しかし介護保険法でできることといえば、居宅介護支援事業所の指定取り消し(廃業通知)程度である。

これでケアマネとしての仕事はできなくなったが、介護支援専門員資格の取り消しについては言及されていない。他の場所でまた指定をとればケアマネ業復活である。ケアマネの資格取消については県に権限があるので、現在、資格取消の処分などを検討しているのではないだろうか。

以下に神戸市が出した処分理由を一部抜粋してみた。興味がある方は下のリンクから全文を読んでいただければと思う。

・「経済的虐待」の理由(B氏とは姉妹のうち妹の方)

当該法人の代表者はB氏と平成22年8月17日に委任契約及び任意後見契約を、平成25年10月4日に死後事務委任契約をそれぞれ締結し、当該介護支援専門員は平成25年11月26日にB氏と養子縁組を行った上で、当該介護支援専門員らは、B氏の預金口座から3,000万円を出金して当該介護支援専門員らが鍵を管理していてB氏が容易に開扉できない貸金庫に保管し(中略)
 これらの財産の処分行為は、金額が高額であることや上記各行為の前後の状況等からして、B氏が自由な意思に基づいて同意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできず、仮にB氏が同意していたとしても、社会通念に照らし不当な財産処分行為である。



・「忠実に職務を行う義務違反」の理由

当該介護支援専門員らがB氏から取得しようとした財産額はB氏が受けられるサービスに対する適正な対価を著しく超過しているし、その前後の状況等からしてB氏が自由な意思に基づいて同意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできない。そのため、B氏の経済的負担によって当該介護支援専門員らが多額の利益を得ようとしたことは、仮にB氏の承諾があったとしても忠実義務に違反する行為である。(介護保険法第84条第1項第6号)

神戸市資料
http://www.city.kobe.lg.jp/information/press/2017/09/20170915133301.html

長寿社会もなかなかしんどい

ケアマネージャーや専門職の成年後見人なら悪いことはしないだろう、という世間の信頼感を裏切る行為は許しがたい。大半のケアマネージャーはこんな犯罪行為とは無縁である。ケアマネとしての能力の良し悪しはあるだろうが、プライドをもって仕事にあたっている。

しかし、悲しいことだけれど、これに似たことは各地で起こっているし、今後は増えることはあっても減ることはない。金額の大小や手口はいろいろだろうが、介護の専門職が搾取する側にまわる。密室化された中ではそれを訴えたり、立証することが(認知症があってもなくても)要介護高齢者には困難なのである。そこにつけこんで密室の中でことを運んでいくのだ。

本末転倒のようだが、こういったことを防ぐためには自衛するしかないのだろう。頼れる家族がいなければ若いうちに自分で備えておく必要があるし、家族は認知症高齢者の財産管理について勉強するしかない。僕としては認知症になってから後見人をつけるよりも、自分が信頼できる人をちゃんと選んで後見人を頼むほうがいいと思う。

老後はとても長くなっている。65歳で高齢者の仲間入りをして85歳で死んだとしても20年。95歳まで生きたとしたら30年も「老後」がある。人生設計は先の先まで読まないといけない時代なのだ。でも誰が認知症になったときの自分(もしくは親)のことを想像したいだろう?長寿社会を生きるのもなかなかしんどいのだ。

コメント

  • 盗人猛々しい

    この手の犯罪が表沙汰になるのは、日本では初めてのことかも知れません。

    この事件はケアマネ夫婦が、確実に財産を取り込むために禁じ手を使いました。

    まずはケアマネとして妻が高齢者宅に出入りをして、ケアプランを立てるために諸事情を調査しています。
    この時に資産状況、親族との関係を念入りに調査し、高齢者と信頼関係を作ります。

    金融資産を含め、ある程度の資産があることを確認できたら、夫の馬越博邦が満を持して登場します。

    ここからは親族を近付けない、秘匿作戦に入ります。
    認知症であっても、認知症の検査はしません。

    確実に財産を奪うために養子縁組という荒業にでました。

    認知症ではそもそも任意後見、財産管理契約、死後事務委任等の契約ができません。
    そのため、認知症に認定はさせません。

    この公正証書作成には、公証人もある意味グルな訳です。
    元々地方の検察官である公証人は、天下りで公証人になります。
    当該公正証書の立会いの公証人は、すべて同じ公証人が立ち会っています。
    まともに公正証書の確認もしないまま・・・

    このようなことが行われていても、法務省の管轄下の公証人の不祥事を表には出せません。

    今回のように親族が気づき、問いただせた場合はいいです。
    この被害者以外の被害者も確認されている現在、行政、警察の連携、真相究明が必要ではと思います。

    性善説に基づき行われる業務において、主たる意味とは違った形で公正証書を用いる犯罪の温床になるのは間違っているのではと思います。

    この馬越夫妻が世の中に与える影響、懸念、介護従事者への冒涜ではないでしょうか。
    高齢者社会における、新しい罰則も必要なのではと思います。


  • Re: 盗人猛々しい

    >>1
    おっしゃるとおりです。かなり計画的な「犯行」ですよね。ケアマネージャーが取得する情報とその立場を悪用すれば、かなりのことができる良い(?)例だと思います。

    介護関係者の信頼を損なう迷惑な話です。


  • Re: 盗人猛々しい

    >>1
    この件が報道されてから、「この夫妻だけで、この手口(?)が成立するのかな?」と考えていたのですが、「公証人もある意味グル」というご指摘に、納得(?)しました。やっぱり「協力者」がいないと成立しませんよね。

    私は「A氏の入所した介護保険施設の関係者がグルなんじゃないか?」と思っていました。入所者の金銭管理を誰が行うのかって、きちんと確認すると思いますし、それが居宅ケアマネが行っていることを黙認してたんじゃないか?と思うんです。

    >管理人様へ
    これだけのことをやっても、経済的虐待にしかならないことに、何とも割り切れない思いだったのですが、ご意見拝見し、理解が進みました。ありがとうございました。



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