混合介護に国のお墨付きがでると、小規模事業所が淘汰される?

いつのころから出てきたのかわからないけれど、最近よく聞くようになった混合介護。いわずもがな混合診療と語尾を合わせた言葉である。どうも政府は混合介護を推進したいようだけれど、それはなぜか、というのが今日のお話し。

これまでに混合介護については政府の有識者会議で話し合われてきたが、反対意見が多く、本当にルール化されるかどうかは不明だ。

例えば、ヘルパーが家族の分の洗濯やベランダの掃除、窓拭きなどを一緒に済ませたり、デイの時間内にショッピングへ連れて行ったりするサービスが念頭にある。厚労省はこれらを広く容認する構想に対し、「利用者の負担が不当に拡大する恐れがある」「自立支援という理念が形骸化しかねない」などと慎重な態度をとってきた。

厚労省、混合介護のルール明確化へ有識者会議を新設 年度末にまとめ
http://www.care-mane.com/member/news/8731?btn_id=ranking-view&CID=&TCD=0&CP=1

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混合介護の前に混合診療についておさらい

混合介護にはいるまえに混合診療について触れておいたほうがいいだろう。医療は医療保険が適用されるものと適用されないものに分けられている。保険が適用されない医療は自由診療と呼ばれる。例えばがん治療において最先端の未承認の抗がん剤を使用する場合だ。

混合診療は保険内の医療と保険外の医療を受けることを指すが、これは原則認められていない。混合診療を受けるなら保険適用される部分も自由診療扱いになり、10割負担になる。10割負担になると、とんでもないお金になるのはおわかりいただけるはずだ。

でもすべての混合診療がだめというわけではない。中には認められているものもある。現在認められているのは以下の17種類。ハッキリ言ってややこしいので読み飛ばしていただいてかまわない。

① 評価療養・・・先進医療等の7種類
先進医療(高度医療を含む)
医薬品の治験に係る診療
医療機器の治験に係る診療
薬事法承認後で保険収載前の医薬品の使用
薬事法承認後で保険収載前の医療機器の使用
適応外の医薬品の使用
適応外の医療機器の使用

② 選定療養・・・差額ベッド代等の10種類
特別の療養環境(差額ベッド)
歯科の金合金等
金属床総義歯
予約診療
時間外診療
大病院の初診
小児う触の指導管理
大病院の再診
180日以上の入院
制限回数を超える医療行為

上記の診療を受けた場合、検査や一般診療、入院費等の基本部分は公的医療保険が適用される。それ以外は全額自費負担になる。

医療保険は上記のように混合診療が認められているものが限られている。認可以外のものを混合すると、保険適用分まで全額自費になる。これはなぜかというと、混合診療を認めると、平等な医療を受ける機会を保証した皆保険制度の主旨に反してしまうから、と言われている。わかるようなわからないような理屈である。混合診療についてはいろいろと意見があるけれど、今回のテーマではないのでこれ以上つっこまない。

混合介護を受けるとすべて自費負担になるの?

それでは介護保険の混合介護はどうなっているのか?混合介護を受けると保険適用分も全額自費になってしまうのか?混合診療と同じように考えればとうぜんそうなるはずである。でも介護保険に限ってはそうなっていない。保険適用分は保険がきくし、適用できない部分は自費を払えばよいことになっている。なぜかは僕にも分からない。医療より介護が下にみられているとしか言いようがない。

さらに今でも介護保険を使わない方の契約(自費サービスの契約)で訪問介護事業所のヘルパーに家事代行サービスを依頼すことは可能だ。国が混合介護について議論しているのは、混合介護の現状把握と積極的推進、そしてルール作りについてどうするか?ということである。

例えば訪問介護サービスで考えてみよう。訪問介護のサービス時間が1時間だとする。この1時間は介護保険を利用した1時間である。だから保険適用にならない自費サービスをするのなら、この1時間が終わってからということになる。保険適用されている1時間の中にいれこんではいけないのだ。実は介護保険法にはそのような規定はない。厚生労働省が明確に分けるよう指導しているだけだ。むやみに混合していることがばれると、介護報酬返還というきついペナルティーが発生する。だから事業所は気をつけてサービス提供している。

これが混合介護をルール化すると変わってくる。これまで保険適用分と適用外のサービスは同時時間内に提供することはできなかったが、これができるようになる。

混合介護のメリット

混合介護のとりあえずのメリットとして2つ考えられる。一つは利用者とその家族側のメリットだ。介護保険内での介護サービスは最低限のサービスである。混合介護にすることによって、要介護者とその家族が、介護保険内の介護サービスよりもう一歩上のサービスを使うことができる。

訪問介護で考えると、家事代行サービスが増える。現在は介護保険を利用した訪問介護サービス中には本人の食事と一緒に家族の食事を作ることはできない。これが混合介護のルールが制定されると、それができるようになる(はずである)。掃除も本人が使用する部屋のみという制限が撤廃され、自費分を払えば本人が使用する部屋以外の掃除もできる。自分のお気に入りの訪問介護員に指名料を払ってきてもらう、ということもできるようになる。

もう一つのメリットは事業所側の収益アップだ。混合介護を利用する人が増えれば、介護事業者は提供するサービスの選択肢が増え、利益を伸ばしやすくなる。そのうちのいくらかは介護職員の収入に反映されるだろう。事業所間の競争が増え、新たなビジネスが創出される、かもしれない。

混合介護のデメリット

上のようなメリットはあるが、僕はデメリットのほうが大きいのではないかと心配している。訪問介護員の家政婦化が進行することである。例えが訪問介護ばかりになってしまうのは、現状混合介護を行っているのは訪問介護の現場が多いからである。

もし混合介護が積極的にひろまると、良心的な介護事業所ほど経営が苦しくなる。体力のある大きな企業は低料金でプラスαのサービスを付けてくるだろう。訪問介護はけっこう口コミの影響を受ける。今でも◯◯事業所はこんなことをしてくれるのに、あんたのところはしてくれない、なんて苦情が多いのである。

たとえ我々サービス事業所側が介護保険の根幹である自立支援について理解していても、サービス利用者側が理解しているとは限らない。「◯◯さんのところはしてもらっているのに、なんであんたの所ではできないのか?」と言われる。人は楽をしたいものである。多少のお金を払ってでも自分のかわりに家事などを行ってくれるのなら、頼む人が増えるだろう。

それが「自分でやってもらう、それが自立を維持する」というこれまでの訪問介護の考え方と喧嘩しないわけがない。またお金を払ってもらえば何でもしますよ、というサービス仕事になると、専門職としてのアイデンティティーを見失うことになりはしないか。訪問介護員は介護職なのか家政婦なのか?というアイデンティティーの揺れである。

あれもこれもやってくれる事業所が出てきたら、利用者はそちらのほうに移ってしまうかもしれない。結果的にそういう訪問介護事業所が太ることになり、介護職の待遇も他のところよりよくなる。訪問介護員は登録型の人が多いから、どうせなら少しでも時給がいいところで働きたいと、人が移ることになる。すると自立支援を念頭に置いてがんばっている良心的な小規模事業所はさらに打撃を受ける。という感じである。

混合介護についての国の思惑を予想

まず国としては混合介護を積極的に使ってもらうことで事業所に収入をアップしてもらう。そうすればベースとなる介護報酬を据え置くことができる、もしくは「儲けすぎている」という理由で下げることさえできるかもしれない。そう考えている。

また国は社会資源の整理もしたいはずである。デイサービスが増えすぎたので、点在しているデイを整理するために小規模デイの報酬をぐっと引き下げた。そのためにデイは一定以上の定員を確保しなくていけなくなった。ちょこまかとやるより、スケールメリットがいかせる規模にせよ、ということである。社会資源の省エネである。

訪問介護事業所は大企業よりも独立開業した小規模のところが多い。そういうところは資金的な体力が弱い。現在でもけっこう厳しい介護報酬で経営しているのに、報酬を下げられたら経営が困難になる。経営ができなくなれば、倒産するか、それが嫌なら身売りして大きなところに吸収されるしかない。

それは市場原理でいえば当たり前ではないか、という人がいるかもしれない。確かにその通りだ。完全な自由競争ならその通りだろう。しかし介護は保険で公定価格が決まっている。ベースの価格は事業所が勝手に変える訳にはいかない。混合介護の自費サービスの価格は自由に設定できるだろう。となると、より低料金でサービス提供できるのは大きな企業ということになる。自費分はできるだけ低料金にし、それをエサにして利用者を獲得する。

それは訪問介護だけではない。自法人がデイサービスやショートステイを持っていれば、自費サービスを連携させることでより便利なもう一歩進んだサービスを提供できるようになる。まあ利用者がすんなり慣れ親しんだデイをかわるわけがないと思うけれど、大きな企業が利用者をより囲い込みやすくなることは確実だと思う。

たとえ介護報酬が減らされても、自費サービスとスケールメリットをいかして経営できる大きな企業だけが生き残っていく。小規模事業所はごく少数をのぞいて淘汰される。ごく少数というのはものすごく手がかかる要介護者をみてくれる介護事業所のことである。同じ要介護3でも手のかからない人と手のかかる人に分かれる。大きな企業は手のかかる人はとらない(サービスの逆選択)。そういうつま弾きにあった人のために、良心的な介護をするところだけがほそぼそと、少しだけ残る。こんな未来がくるかもしれない。

デイサービスの帰りに買い物をしたいと利用者に言われる。今はデイサービスには買い物サービスは含まれていない。でも「明日何も食べるものがないんだ」、なんて言われたら買い物につきあうのが常識ではないのか。だからばれないようにこそっとしている事業所はたくさんある。でも混合介護が制度化されたら、そういうのはお金をもらってサービス提供しなさい、と指導されることになる。

混合介護に反対する現場の人たち

大企業はスケールメリットをいかして低料金で、かついろいろな利便的なサービスを開発する。競争社会のなかではまっとうなやり方なのかもしれない。小規模事業所はきめこまかいところに対応できるのが良さだ。でもそういう個別的なサービスは効率が悪いし、合理的でもない。そうやって切り捨てられるかもしれない。

非効率がいいと言っているわけではない。サービス事業者側からすれば、できるだけ効率的でありたい。けれど介護とは非効率につきあわざるをえない時がある。徘徊するじいさんのあとを、何時間も見守りながらついて行ったり、風呂に入らないというばあさんの横に何も言わずじっと座っていたり、時間がかかっても口から食べてもらうために利用者1人に介護職を1人つけたり。

そうしないといい仕事なんかできない。手間とヒマと根気が求められるのだ。なんだか昔ながらの職人の世界みたいである。しかたない。介護とは人生に関わることだ。人生がすべて効率的に、合理的にいくだろうか?そう、効率が悪くて、非合理的な人にこそ本当の介護が必要なのである。

確かに混合介護は介護職の収入をあげるためのよい機会だと思う。でも有識者会議の中でも混合介護を推進すると「介護の基盤がくずれる」と、反対する人たちが多い。そういうのをみていると、日本の介護はまだまだ大丈夫と思えてくる。

でも僕が要介護者になった頃に、混合介護が制度化されていたらどうしよう。きっと若くて綺麗で性格のいいヘルパーに指名料を払ってきてもらうだろうな。人の欲望は限りありませんね。思わず井上陽水を歌っちゃったりして。

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