リハビリ職は将来介護職になる?

僕の初めての職場は介護老人保健施設だった。そこで相談員として働いた。老健は在宅復帰のためのリハビリを行う介護施設という位置づけである。だから理学療法士か作業療法士を必ず配置することになっている。

僕がいた老健では決まった時間に介護職が訓練室に入所者を連れていき、理学療法士が一通りの機能訓練を行う。機能訓練が終わったら介護職を呼び、利用者を居室に連れ戻す。これが僕がいた老健のリハビリの流れだった。さまざまな訓練機器がつまった訓練室はそのまま病院のリハビリ室みたいで、同時にリハビリ職の城みたいに見えた。

ある日、訓練室の前を通ると、理学療法士が介護職にこう言うのが聞こえた。

「困るよ、ちゃんとトイレさせてから連れてきてくれなくちゃ」

気をつけてみていると、利用者が機能訓練の途中でトイレに行きたいと言う時は必ず介護職が排泄介助を行った。リハビリ職が排泄介助を介護職に依頼するからである。僕はこれについては違和感を持った。目の前でトイレを訴えられたのなら、その訴えられた当人が連れて行ってやればいいじゃないか、と。できないわけがないのだ。なぜなら彼らリハビリ職はトイレに行くための機能訓練を行っているのだから。

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医療・福祉の従事者のなかで供給過多な職種がある?

日本が現状の社会体制を維持した場合、高齢者人口は2042年まで増加し、高齢者の数は3878万人になり、高齢化率は31.6%になる。この後は高齢者の数は減るが、少子化の影響から高齢化率は上がり続け、2060年には高齢化率が39.9%になると予測されている。これは国民の約2.5人に1人が65歳以上という社会だ。かなりとんでもない。

これはあくまでも統計から導き出された人口動態だから、この推計通りの社会になるとは限らない。しかし、よほど劇的な社会体制の変化でもなければ、おそらく統計通りか、この近似値をとる社会になるだろう。統計とはつまりそんなものだから。どちらにせよ人類が経験したことのない(今だってすでにそうだけど)、高齢社会になるのは間違いない。

問題はこの超高齢社会で医療・介護職の担い手が確保できるかだ。総務省統計局の労働力調査による産業別就業者数を見ると、2002年では製造業に就いている者が1202万人。医療・福祉に就いている者は474万人。しかし、これが2021年には逆転し、製造業者が920万人、医療・福祉業者が924万人となり、医療・福祉の従業者数が製造業就業者数を上回ることになる。

製造業よりも医療・福祉の従事者数が多いというのは超高齢社会らしい構造である。それでも医師、看護師、介護職が不足するというのだから、おそろしい社会だ。しかし、中には不足するどころか過多になる職種もある。リハビリ職である。

介護職は不足、リハビリ職は過剰

介護職の人材が不足している。耳にタコができるほどよく聞く。もうお腹いっぱいである。本当のところはどれくらい足りないのか。厚生労働省の試算では、2025年には約350万人の介護従事者(相談職等の介護関係職含む)が必要とされている。このうち介護職は250万人が必要。しかし、2017年現在でも介護職は約200万人ですでに必要数より10万人ほど足りないことになっている。

少子化でどこも人材確保が難しくなっている中、介護職は数の上では年度ごとに増えている。国のテコ入れがあるにしても珍しい業界だ。しかしそれにもかかわらず、介護職の充足率は低下すると予測されている。

2025年までにあと50万人もの介護職を確保するのは難しいだろう。介護は労働集約型なのでマンパワーがどうしても必要になる。介護ロボットが開発されているが、2025年はもう目の先である。そんなもので介護人材の穴埋めになるとは考えられない。そのため、国は求職者支援訓練を利用して「介護職員初任者・実務者研修」を受けられるようにしたり、外国人技能実習制度に介護を付け加えたりして、半ばなげやりな感じで介護職を増やそうとしている。

しかし、その一方で供給過多の職種がある。介護現場にも縁が深い理学療法士や作業療法士だ。理学療法(PT)の国家資格保持者は平成12年の2万6921名から平成24年には10万560名と約4倍に増加。作業療法士(OT)は平成12年の1万4880名から平成22年には5万3080名と約3倍になっている。ちなみに平成28年度のPT、OTの資格試験の合格者は合計で約14000人もいる。多すぎである。

これはここ20年でリハビリ専門職の養成施設が10倍以上に増えたためである。とうぜん資格保持者が増える。養成校が閉鎖しないかぎり卒業生は今後も輩出されていくので、供給過多の状況はいっそう進むだろう。でも医療機関の数はたいして増えていない。するとPT、OTの働き先として介護施設が候補にあがることになる。

リハビリの仕事がしたいなら介護現場

今後いっそう医療費の抑制が進むと、まずコ・メディカル(医師の指示のもとに業務を行う医療従事者)の給与が引き下げられるだろう。看護師よりもPT、OTのほうが影響を受けると思う。給与がさがるだけならまだしも、医療機関に働き口がなくなるため、リハビリの仕事がしたいなら介護現場、ということになる。

国も不足する介護職の穴埋めをPT、OTに期待している。リハビリ=ADLの改善=要介護度の低下=介護費の抑制。国はこんな小学生の発想みたいな考えを堅持しているので、いつものようにからめ手で攻めてくる。

このなかで日本理学療法士協会、日本作業療法士協会、日本言語聴士協会のリハ専門職3団体は、介護サービス受給者の自立支援を促すには、地域や生活の現場を知るリハ専門職の積極的関与が不可欠と主張。訪問看護ステーションの理学療法士、作業療法士、言語聴覚士を市町村が行う介護予防・日常生活支援総合事業や、リハ専門職が配置されていない介護・障害者サービス事業所などが外付け機能として活用することで、地域へのリハビリテーションの効率的な普及が可能になるとの認識を示した(p108参照)(p120参照)。

ケアマネタイムス リハ専門職関係団体などから意見聴取 介護給付費分科会

http://www.care-mane.com/member/news/8631?btn_id=related&CID=&TCD=0&CP=1

リハビリ職の専門性とはなにか

現在のリハビリ職の専門性とは「神経、筋肉、骨」に集約されるのではないか。この3つがリハビリ職が最も専門性を発揮できる対象だと思うからである。これはもともとリハビリ職が傷病者の社会復帰(経済復帰)を目的に創られた職業だからだ。しかし、高齢化社会においては傷病者の社会復帰よりも、傷病高齢者の生活復帰を支援する場面が増える。というかそればっかりということになりそうである。であれば「神経、筋肉、骨」ばかりを観ているわけにもいかなくなる。生活を観る必要が出てくる。

しかし理学療法士会の半田会長の考え方は少し違うようだ。

半田会長はこれを踏まえ、「医師が関わりPT、OT、STがそれぞれの専門の療法を行う。それをもって初めてリハビリテーションという言葉を使うべきだ」と主張。「介護保険には通所リハビリテーションと『リハビリテーション特化型』の通所介護がある。専門職がきちんと配置されているのはどちらか、利用者には全く分からない。このままでは良くない」などと改善を求めた。

ケアマネタイムス 通所介護の「リハビリ特化型」、実態は? 理学療法士協会が疑問視 改善を要請―社保審・介護給付費分科会
http://www.care-mane.com/member/news/8634?btn_id=related&CID=&TCD=0&CP=1

僕から言わせればこの会長はリハビリ職の専門性に対する視野が狭い。通所リハビリテーションのほうが通所介護より専門性が高いと考えているようだが、何をもってそう言うのか。何がリハビリの専門性なのか。機能訓練に特化すれば病院で行う急性期直後が最も効果的だろうし、最も自らの専門性を感じられる機会でもある。でも相手は要介護高齢者である。機能「訓練」でも生活「訓練」でもない、彼らに必要なのは「生活そのもの」なのだ。

介護職は専門性があるようでなく、ないようであるという絶妙な職種である。なんでもしないと生活支援ができないが、実際はなんでもできるほど万能ではない。やれることは決まってくる。つまり「食事、排泄、入浴」の介護である。僕はこの3つにこそ介護の専門性があると思う。

介護学とはつまり生活学であり人間学であるから、雑多なものになるのはしかたがない。「神経、筋肉、骨」などといった突出したものにはなりにくい。色んなものの寄せ集めで成り立たざるをえないから、特徴が分かりにくいのである。

国はリハビリ職を介護人材に転換させようとする

国はリハビリの人材があまるなら介護の人材に転換しようとするだろう。すでにPT、OTは介護の職場にかなりの数が入ってきている。シフトさせるのはそれほど難しいことではない。もちろん現場の人間は反発すると思う。我々はリハビリ職であって介護職ではない、と。しかし国は強行的に押し通すに違いない。それに結局リハビリ職も生き残るためには、介護をがっちりつかむしかなくなるはずだ。

リハビリには介護の考え方が、介護にはリハビリの知識が求められる。リハビリ職が介護職に呑まれていくのか、介護職がリハビリ職に呑まれていくのか、どちらだろうか。

どちらもできる、みたいなハイブリッドなわけのわからん資格がまた出てきそうですね。名前は何になるかな?介護訓練療法士?センスないなぁ。

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