ケアプランはAIを使って作るより、物差しを使って作るべき

介護の大手企業であるSOMPOケアグループがケアプランAIの開発に参画したそうである。

SOMPOケアグループは今回、シーディーアイとともに業界が抱えている課題の解決に貢献していくと説明。ビッグデータを読み解き最適解を導くAIの強みを活かす考えで、「自立支援につながるケアマネジメントの実現を目指す」「ひとりひとりに適した『カスタムメイドケア』 を実現していく」などと意欲をみせている。

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AIはいずれ生活に浸透してくると思うけど

またAIか、といった感じである。僕はケアプランのAI開発なんて無駄金を使っているとしか思えない。といっても別にAI(人工知能)そのものをハスにみているわけではない。

いずれいろいろな分野、さまざまなレベルでAIが生活に入り込んできて、無くてはならないものになるだろう。現代日本でもはやコンピュータなしには仕事が成り立たず、スマートフォンなしには生活がしづらいように、AIを利用したさまざまなものが我々の世界に浸透するはずだ。

それに人間はいろんな可能性を試したくなる生き物だ。今はやりのAIを介護分野のケアプランに応用したくなる気持ちは分かる。そういった好奇心を否定してしまったら、人間の進歩はない。だからそれはそれでいい。ただ僕としてはAI開発に金を使うくらいなら、先にやっておくことがもっとたくさんあるじゃないか、という気持ちが拭えないのだ。

ケアプランはなんのためにある?

ところでケアプランってなんのためにあるのか?という前提をきちんと押さえておかないといけないだろう。介護職といっても、全員が利用者を理解する優しい心、よく気がつく注意力、適切な介助技術、認知症の深い知識と理解、受容と傾聴の実践能力を持っているわけではない。優しい心をもっていても介護技術がおいついていない人もいるだろうし、介護技術があっても傾聴できない人もいると思う。すべてが高いレベルにあって介護が天職という人もいれば、すべてが低く介護職には向いてないんでないの?と思う人もいる。

今回のテーマとはあまり関係ないけれど、介護の知識や技術が高く、意識も高い介護職はあるミスをおこしやすい。自分以外の介護(職)を否定することである。言っていること、やろうとしていることは正しいのだけれど、介護は複数の人間で行うチーム戦であることを忘れてしまっている。つまり、突出した能力をもつ介護職がいても、それがたった1人なら現場ではあまり意味をなさないということである。逆に言えば害にさえなる。

介護職は介護を仕事として行う。介護職にも自分の生活があるから、基本的に一日8時間の拘束時間以外は自分が職場にいない時間帯がかならず発生する。そのときに自分以外の介護職が利用者のケアにあたっているわけである。いくら当人の能力が高くても、その能力の高い介護職が現場にいなければケアの質が下がる、というのでは困るのである。誰が困るかというと利用者である。利用者にしてみればケア内容の差が激しすぎて、逆に迷惑と感じるかもしれない。

それでなくても人間が行うことだから、複数人で行えばそれぞれケアの方法がばらばらになるのが当たり前。それを介護を受ける人の身になって考えた時に、最低限のケアの方法と方向性を均質化しておきましょう、と約束事を作っておく。これがケアプランを作る目的である。

利用者の尊厳は椅子の高さでわかる

介護はチームで行うのが前提である。チームで行わない介護は仕事としての介護ではない。しかし、介護は客観的に何が良くて何が悪いかという指標が示しにくい特性を持っている。介護職個人の価値観によって良い介護、悪い介護が決まってくる。そのため評価が難しい。しかし本当に介護職にとって共通の指標を見いだせないのだろうか?

ここで「物差し」が登場する。比喩としての物差しではなく、現実にある長さを測るあの「物差し」である。物差しと介護に何の関係があるの?と思うだろう。実は大いに関係があるのだ。食事の時間に介護施設を訪れてみてほしい。食堂に入居者がいて、食事をしているはずだ。その光景をみて違和感が持てる人は介護職に向いているかもしれない。

介護施設にある椅子の座面までの高さを物差しで測ってみると、だいたい40センチになる。これはだいたいどこも同じである。椅子の規格が決まっているから、よっぽど芸術的な椅子をそろえた施設でない限りどこも同じ高さになる。

椅子の座面の高さとは普通に座って、足が接地するまでの長さである。そして次に要介護者の膝から下の脚の長さを測る。もし椅子の高さのほうが長いと、足がしっかり床についていないことになる。足が床にしっかりつかないと前かがみの姿勢になれない。これがどういうことかというと、「介護施設としての椅子として失格」ということである。

前かがみの姿勢は日常生活を送る上で、僕たちが必ずとる基本的な姿勢だ。ちょっと思い出してみてほしい。食事するとき、排泄するとき、お風呂の出入りをするとき、必ず前かがみになっていることがわかる。まちがっても絶対に「後ろ」かがみにはならない。それは自然な動きではないからだ。介護では食事、排泄、入浴の介助を行う。そして要介護者ができる行為は本人にしてもらい、介護者はそのできないところの手助けをする。これが良い介護とされている。

食事介助だと介護職がスプーンを口のところまで持っていって食べさせるイメージがある。だがそれは介助の一部分に過ぎない。まず足がしっかり床について前かがみになれるという基本的な姿勢(環境)を作ることから介護は始まっているのだ。そのために椅子の座面の高さを利用者の下腿長に合わせて調整する。そのために物差しが必要になってくる。

共通の指標を設定し、チームケアを作っていく

ここからチームとして介護の方向性を作っていく。両足がしっかりつく椅子の高さ、食べ物がとりやすいテーブルの高さ、寝返りしやすいベッドの幅、立ち上がりしやすいベッドの高さ、移乗しやすい手すりの位置。これらは利用者の体格、体力、障害部位、性格によってすべて異なってくる。それをきちんと合わせてあげるのが素人にはできないプロの介護なのだ。

能力の高い介護職はメジャーを使わなくてもその位置が感覚的にわかるものである。しかし、あえて数値として見える形にして他の介護職と共有することで、介護方法の共有化がはかれる。

テーブル、椅子の高さを利用者に合わせると、介護に変化をもたらす。Aさんという80歳女性の車椅子の要介護者がいた。食欲がいつもなく、介助してもあまり食べずに現場が困っていた。そこで足がつく高さの椅子に座り直してもらい、シーティングをととのえ、テーブルも特別な高さに調整した。食べ物がすべて視界にはいるようにしたのだ。

すると、いままで声かけをしてもまったく反応しなかったAさんが、自分からスプーンを手にとり、食べたのである。介護職は食べる姿勢の重要さをここで確認することになる。物差しを使い数値化することで、なにが良い介護か、何がよい姿勢かというものをチームで共有することができるようになる。

人間らしい泥臭さがケアマネジメントの基本

このように目に見える形にしていくことで介護の具体的な方法、また目指すべき方向性を示すことができる。1人の介護職にスーパーマンのような実力があっても現場では無意味なのだ。大事なのは、介護を行う職員同士で本当のチームを作っていくことだ。これがケアマネジメントの基本でもある。介護職は社会資源だ。それが連携をとれないと力が発揮できない。ただの単体サービスの寄せ集めになってしまう。それはケアマネジメントとは言えない。

もちろんここには人間らしい泥臭い試行錯誤がある。駆け引き、ばかしあい、妥協、あきらめ、そしてゆずれない想い。

介護の方向性を決めるのはけっきょく人

介護の現場で働いている人は、それぞれいろいろな思惑をもって仕事をしている。福祉大学を出て老人介護の仕事に信念と誇りをもっている人もいれば、リストラにあい転職先がなく、仕方なくこの仕事に就いた人もいるだろう。

また圧倒的に女性が多い職場であることも忘れてはいけない。子供が小さいので働く時間が調整できるパートとして気軽に働きに来ている人もいる。介護という仕事に特別な思い入れを持っている、という人ばかりではない。

こういったとき介護施設が組織として目指す方向・到達点を決めるのは施設長(人間)の役割である。もし施設長が求める介護の方向性が自分のものと大幅に異なるときは、早めに次の職場を探したほうがいいかもしれない。介護の職場は他にもたくさんある。まあ将来は「無能な人間の施設長より優秀なAIのほうがいいわよねぇ」なんて会話が普通に飛び交っているかもしれないけれど。

まず一人ひとりに適した椅子の高さからはじめよ

SOMPOケアグループはAI開発の目的について、「ひとりひとりに適した『カスタムメイドケア』 を実現していく」などと表現している。

それならまず利用者一人ひとりにあったテーブル、椅子の高さにすることから始めればいいのに、と僕は思う。断言してもいいが、SOMPOケアグループが経営している介護施設の食堂にあるテーブルと椅子はみな同じ高さのはずである。身長170センチのおじいさんも身長140センチのおばあさんも同じ高さのテーブルと椅子に座らされている。見学のときは物差し(メジャー)をもって椅子の高さを測ってみて欲しい。みな一様に40センチのはずである。ちなみにテーブルは70センチが多い。

床に足がつかない人にはダンボール等で作った手作りの足台を置いたりしている。でもSOMPOケアグループくらい資金力のある企業が「カスタムメイドケア」とのたまうなら、まず利用者の体格に合わせたテーブル、椅子、ベッドくらいはしっかりカスタムしろよ、と思う。立派な介護施設にダンボールの足台なんて似合わないでしょうが。

なんだか金の使い道が間違っているんだよな。そう思いませんか?

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