「間違えてはいけない老人ホームの選び方」前半

ポイントは的確、だけど細かい

著者は本間郁子氏。御茶ノ水大学(老年学)の講師を経てNPO法人Uビジョン研究会理事長。他理事を多数うけおっている。講師や本も多数執筆している。

この本の特徴は2つ。特養を中心にしていること。介護保険を使った入所施設はどこも基本は同じなのでこの点はとくにマイナスにならない。知識がない状態でサービス付き高齢者住宅やら地域密着型のグループホームなどを紹介されても混乱してしまうからだ。どんな種類の施設であろうが、中で行われているケアは変わらない。組織体制の本質も変わらない。その点をチェックする書籍としてはたいへん優れていると思う。

しかし、優れているのだが、あまりにもチェックポイントというか、「施設にここを聞いてください」というのが細かすぎるなと思った。掲載されている質問項目も多く、一回の見学くらいで聞ける量ではない。ここまでくると家族が行うレベルを大きくはずれていて、第三者評価レベルである(もしかしたらそれも超えているかもしれない)。

でも非常に的確にポイントを押さえている。施設側からすれば聞かれたくないことばかりである。こんなこと聞く家族には二度と来てほしくないな、と思う。僕が相談員として対応したらけっこう困るレベルの質問ばかりである。
介護サービスに慣れていない家族がここに書かれている質問をするのは勇気がいると思う。しかし施設側を戦々恐々とさせることは間違いないので、ぜひ聞いてみてください。

チェックポイントの項目が多く、また介護のことをあまりよく分かっていない段階では聞きづらい(質問の意図をつかめないだろう)と思うものははずした。よって僕が個人的におさえてほしい箇所をとりあげた。

なお出版が2011年なので情報が古い部分がある。特養の入居条件が原則要介護3以上になったことなどが載っていない。しかし本書は介護制度の紹介を目的にするものではないため変更箇所すべてに注釈はつけていない。抜粋した文章の中で現行と違う場合のみ注釈をつけている。まとめると文量がけっこう多くなったので前半、後半にわけた。まずは前半から。

目次

序章 特別影向老人ホームの現状
本編 老人ホームを選ぶチェックポイント
①老人ホームを選ぶ7つのチェックポイント
②法人理念と組織体制のチェックポイント
③職員教育システムのチェックポイント
④居住環境のチェックポイント
⑤サービス内容のチェックポイント
⑥施設観察時のチェックポイント
⑦家族の支援と関わりのチェックポイント

サービスの質は後回し?

 いまは、入れるところに入るという人が多く、サービスの質を真剣に問う人はあまりいません。しかし、施設に入る当事者にとっては自分の人生がかかっているのです。都市部においては施設を選び納得して入居を決めても、必要な時に入居できる状況にはないため、家族の事情が優先されてしまい、一日でも早く入れればいいということになり、サービスの質は後回しにされてしまうのです。誰も苦情を言わないことが見直しが遅れる要因となっています。(本編 老人ホームを選ぶチェックポイント6)

これは僕も常日頃思っていることである。家族は入居までのハードルが高いので、入居できたらそこで力が抜けてしまうのだろう。気持ちはわかるのだが、入居後もケアの縁が切れたわけではない。施設によっては1週間に一度は洗濯物を取りに来てくださいとか、通院の付き添いはかならず家族がしてください、とかあれやこれやと言ってくる。入居=介護の終わりではないのだ。

しかし家族は関わりたくないのである。それは人間の持つ本能だからしょうがない部分がある。老人ホームには老病死という健康な人間が見たくないすべてのものが詰まっているのだ。自分が避けたいことを他人がしてくれている、しかも自分の親のことを。この自罰的な思いから苦情が言いにくくなる。

でも介護職だった僕としては家族がケアの内容に口をだしてもらったほうが良い。見当違いなことを言われるとちょっと困るが、どちらにてしても家族が言う言葉には力がある。何も言わない家族が一番いけない。うまく家族と協働できれば、介護職が施設ケアの底力をあげられるはずなのだ。介護職の努力だけではもう限界だと僕は思う。

施設で看取ってもらうために必要なお金

看取り介護加算
 医師が看取り期であることを診断し(略)、常勤看護師が1名以上いて、夜間・深夜に介護職員との連携が取れれる体制が整っており、看取りに関する職員研修が実施されている場合において加算されます。(略)
 加算は、死亡日以前4会場30日以内で1日80単位【※H29年現在は114単位に変更】(27日✕80=2160円)、死亡日の全日および前々日は1日680単位(2日✕680円=1360円)、死亡日は1日1280単位(1日=1280円)。つまり施設で看取り介護を行った場合、入居者が支払う費用は4800円【※H29年現在は5718円】ということになります。 (本編 ①必要なお金のチェックポイント)

加算については他にもいろいろ取り上げられているのだが、ここでは看取り加算のみとりあげた。看取り加算は平成29年現在料金が変更されている。

僕は在宅のお年寄りの看取りを何人か経験している(施設の看取り経験は少ない)。在宅と施設では簡単に比較できないし、看取りを金額に還元するものでもないとは思うが、在宅で看取ろうとすれば上記の加算分ではすまない。少なくとももっとお金がかかる。逆に施設の看取り加算は安すぎるのではないだろうか?と思ってしまう。

看取り時期に入ると口から何も食べない、水もほとんど飲まない、意識も朦朧としてくる。いつ亡くなるかわからない。だから介護職は何度も部屋に訪れ様子をみる。人が亡くなっていくのだ、というその事実をただ受け入れていく。手を動かしてできることがだんだん減っていく。でも頭はつねにその入居者のことでいっぱいである。他の入居者のことも気にしながら仕事するので普段の3倍は疲れる。不安も強い。そんなとき家族がしっかり本人のそばにいてくれると、介護職も助かるのである。精神的に。

けっきょく施設長ですべて決まる

 さまざまな専門職としのて資格を持っている職員が増えているなかで、理事長や施設長に義務として課している資格は皆無です。職員がどんなに高いモチベーションを持っていたとしても運営者の考え方次第でそれが尊重されるとは限りません。職員が違法行為にあたるケアをしていることに気がついたときにそのことを問題にして、怒り、あるべき方向性へ導いていけるような行動をとることが出来ない場合、サービスの質は悪化していきます。 (本編 ②法人理念と組織体制のチェックポイント)

入居すると、だいたい担当介護職がつく。ケアプラン作成のためのアセスメントやモニタリングをしたり、ケア内容について提案するためである。その上が介護リーダー、フロアリーダー、介護主任(ケアマネ兼務の場合も)、少し飛んで施設長というあたりだろうか。担当介護職がいちばん本人のことを気にかけ、把握もしているのだが、一番辞めやすい人もこの人なのである。施設によっては離職率が高く、数カ月おきに担当者がかわることも珍しくない。よって顔も覚えられない。担当をつけている意味がほとんどない。

そんなことになるのはすべて施設長の責任である、と僕は言い切る。介護施設が扱っているのは入居者にしろ介護職員にしろナマの人間である。モノなら手荒くあつかって傷がいても新しいモノに変えればいいが、人間はそうはいかない。施設長のキャラクターで施設の雰囲気が決まるので、入居する場合は必ず施設長の人柄を見極めることが必要である。

しかしここで注意しないといけないことが1つ。温和で優しそうな施設長だからここは良い施設だ、と判断しないこと。組織のトップは優しいだけではつとまらない。八方美人な性格で責任もとりたくないので自由放任にしているところもある。長としての責任を果たす能力がある人か?という面でも判断しなければいけない。なかなか難しいものである。

施設にとって豪速球の質問とは?

ここからは本書に載っている質問のポイントについてとりあげ、短く解説する。見学のときにはぜひ聞いてみてほしい大事なポイントである。僕も祖母の入所候補の施設に聞いてみた。とくに拘束状況については確認しておきたい。拘束への取り組み方、考え方によって介護施設のレベルがわかるからである。

・高齢者虐待防止法に基づいて、これまで自治体に報告したケースはありましたか?(P75)

これは施設側からするとなかなかの豪速球である。とっさに反応できない or 打ち返せない施設のほうが多いのではないだろうか。これは「あなたの施設で入居者に虐待した職員はいましたか(いますか)?」と聞いているのである。これに胸をはってはっきり「ありません(いません)」と答えられる施設長のところなら即入居申し込みをしてもいいと思う(新規の施設をのぞく)。

拘束にもいろいろ種類がある

・拘束している人はいますか?どのような拘束をしていますか?(P75)

「拘束」とは本人の意思に反して行動を起こせないようにすることである。精神病院で患者がベッドに身体をしばりつけられるのが拘束である。さすがに介護施設でベッドに身体をしばりつけるような拘束はないと思うが、手や足をしばったりするのはよく見る。また車椅子から立ち上がるのを防ぐためにY字ベルトで固定したり、オムツに手をいれないようにつなぎ服を着せたりする。手で点滴などを触らせないためにミトンタイプの手袋を装着させるのもよくみられる拘束である。ベッドの柵が4本とも刺さっているのも拘束にあたるし、部屋に鍵をかけてでられないようにするのもそうである。

また、目に見える拘束ばかりではない。例えば立とうとしたところを介護職が「立たないで」と毎回止めるのも拘束にあたる(スピーチロック)。さらに拘束に見えないのが薬によるものである(ドラッグロック)。認知症者で興奮が強くでている人がいると、医者が鎮静効果のある薬を出す。あるいは昼夜逆転で夜に行動する人がいる場合も睡眠薬を出したりする。本当に薬で対応しなければいけない「病気」なのか、判断は医者にまかせるしかない。しかし介護現場が対応できないという理由で薬に頼っているなら、これは拘束である。

施設も拘束をやむを得ず一時的にしている時があるかもしれない。しかし拘束の有無を聞いて、身体拘束だけでなくスピーチロックとドラッグロックの話をしてくれる施設なら、拘束廃止に向けて努力しているところだと思う。なお、「拘束」と「抑制」は同じ意味の言葉なので覚えておいてほしい。

取り上げたいポイントが多いので、後半に続きます。

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