「失敗しない介護施設選び」をななめ読み

特養6つを運営する理事長が書いた本

著者は横江金夫氏で社会福祉法人共愛会の理事長。6つの特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム、療養型病院を有している。特養6つというのがなかなかすごい。本の内容は広くおさえるべきポイントを拾っているという感じで、入門書として良い本だと思った。実際の入居者の介護事例も図と写真付きで載っており(第5章)、とっつきやすい。

著者が理事長ということで、僕はそんな人に現場のことが分かるのか?と思ったが、割りと現場の細かいところまで目が届いているようだ。よくも悪くも入門書という感じなのであまりつっこんだ内容にはなっていないが、最初の1冊としては充分な内容であると思う。

以下は目次。それぞれの章には見出しがついているが、掲載するには多いので省略している。

第1章 施設選びを間違えたことで不本意な最後を迎える高齢者
第2章 至れり尽くせりの介護は寝たきり生活への入り口
第3章 介護施設は全部で7種類 最適な選択のために知っておきたい基礎知識
第4章 安心して家族を託せる施設の見分け方
第5章 施設入居は、人生の第二のスタート。追求すべきは「最後まで充実した人生」

以下に僕が選ぶこの本のポイントを抜粋した。()には章と見出しを書いている。とうぜん前後の文章もあわせて読んだ方がいいので、気になった箇所があれば通読をおすすめ。

「手厚い介護」の有料老人ホームで寝たきりに

 こうした点を考え合わせると、介護施設選びは、「なんとなくなりゆきで」とか、「人にすすめられたから」では、成功は難しいと心得ておくべきでしょう。
 施設選びを始める高齢者や家族は、まず介護保険施設の種類やそれぞれの特徴について、基本的な知識をもっておく必要があります。(第1章 知識不足が引き起こす施設とのミスマッチ)

まずAさんの父親の事例が紹介されている。就寝中にベッドから落ちて股関節を骨折、入院。手術は成功したが介助が必要な状態になったので病院が経営する有料老人ホームを紹介され、専門家がすすめるなら間違いないだろうと考えて入居を決めた。しかしそこでは「手厚い介護」が売りだったため、1ヶ月後に父親は廃用のため寝たきりになってしまった、という話しだ。とくにめずらしくない話しである。雨のあとは虹が立つというくらいめずらしくない。ただ見る位置を間違えたり、そもそも虹なんか見てる時間ないよ、という人には見えないだけである。

本来なら退院後の継続的なリハビリを受けられる施設に入所すべきだったのに、ミスマッチがおきた結果であり、家族は介護保険施設の種類やそれぞれの特徴について知っておく必要があるということである。

じつにその通りなのだが、しかし年々、その「基本的な知識」の範囲が広がりすぎている。制度が複雑化しているのである。介護保険施設に興味のない人(つまり世間の大多数の人)にとってはほとんど理解できない世界であると思う。眼科と耳鼻科の違いとか、総合病院と開業医の違いとかなら実感できる人も多いと思うが、特養と老健の違いを実感できる人は少ないだろう。

だから専門家がいるのだが、その専門家にしてもAさんの事例のように必ずしもアテにできる保証はないのが現実だ。だから家族側も知識をもたないといけない。しかし施設の種類だけでも複雑すぎてすべてを理解するにはかなり勉強しないといけない。そんな時間が仕事や子育てに忙しい一般の人にはない。ならば専門家に・・・、といった感じで出口のない迷路に迷い込んだ気持ちになるのだ。

個室か多床室か

 厚生労働省では、高齢者のプライバシーに配慮するという観点から、2002年以降に建設された特養はユニット型個室にするよう指導しています。(略)
 また認知症がある高齢者では、ほかの入居者の迷惑にならないようにと家族が気遣って個室を選ぶケースもあるようですが、認知症の高齢者が狭い個室でひとりで過ごす時間が長くなると、症状がますます進んでしまうことが少なくありません。その点、多床室であれば、自然に人ととのかかわりや刺激が多くなります。(第2章 居室の環境は、個室がいいとは限らない)

外観を見ただけで古いな、と感じる施設はほぼすべての部屋が多床室(4人部屋)である。逆に新しい外観、造りの施設は個室が圧倒的に多い。これは上に書いてあるように厚生労働省の指導による。
しかし、新設の施設がすべて個室であるわけではない。個室になるとどうしても部屋代が高くなるので、月々の費用があがってしまう。それを考慮して多床室を作っている施設もある。そういうところなら本人の状態によって個室か多床室かという選択肢があるのでいいと思う。人の気配がしないと落ち着かない認知症の人にとって、個室は独房と同じなのだ。

介護施設選びは苦行

入所を希望している人が施設に相談にいくときは、どうしても「すぐに入れるかどうか」や、「いくら費用が必要なのか」が気になるものです。そこをクリアしないと入所できないので当然ではありますが、これらが合致するからといって急いで決めてはいけません。
(略)
施設に入ってから「こんなはずではなかった」とならないためには、どういうときにどのようなケアが受けられるのかを、具体的に質問し、確かめておくことが重要です。(第4章 施設の「介護方針」や基本事項を確認する)

介護施設選びとは苦行である。大型ショッピングセンターでいろんなお店をのぞくあの楽しさは皆無だ。ぜんぜん楽しくない。だからほとんどの人は無意識に早く終わらせたいと思っている。

自分が考えている最低限の条件(月々の費用や、いつ入れるのか)が満たされれば、そこでいいと考えてしまいがちだ。それでも運が良ければ、後悔しなくていい施設に入れるのだが、やはり早計だと僕も思う。運だけで晩年を生きる場所(死に場所)をきめていいのだろうか。著者がいうように急いで決めないようにしたい。

見学時の対応でわかること

民間の有料老人ホームなどでは「入居者のプライバシー保護」を理由に、見学に制限を設けているところもあるようですが、見学者が遠慮しながら施設を回らなければならないような施設は、普段あまり人の出入りがない証拠でもあります。
 反対に見学者が多く、地域に開かれている施設では、入居しているお年寄りも外部の人の出入りに慣れているものです。施設内を自由に見学させてもらえるか、入居者が見学者に慣れているかといった点も、施設を選ぶときの判断材料になります。(第4章 施設を見学するときの注意とは)

施設を選ぶ時の判断材料はたくさんあるのだが、まず見学時の対応でわかることが多い。上記のように見学時に制限が多いような施設は後ろ暗いものがあると判断していい。介護施設において、一時は万事である。この部分は良くできているけれど、この部分はぜんぜんダメ、ということはない。1つがぜんぜんダメなら、他もぜんぜんダメと考えていい。

入居者は施設が生活空間なので見学者側にも配慮は必要なのはいうまでもないが、施設はもともとが閉じやすい世界である。だから外部の人が入ってきやすい環境を作るよう意識をもっているかどうかも大切な要素になる。入居者にしても、毎日同じ顔をみているので外部から人がくると珍しくて刺激になるのだ。内心、話したいと思っている人もけっこういる。そんな雰囲気の人を見つけられたら、そそそと近寄ってこちらから簡単に声をかけてみると、会話が始まる。そこで入居の様子を聞いてみるのも手である。

老健は事前に医療面のサービスを確認

また、老健は医療費が介護報酬に含まれています。そのため、どうしても治療が消極的になる場合があります。
 このように医療面での不安なをを払拭するためには、介護施設に入所する際、高齢者が発熱したり、体調の変化があったときには、すぐに家族に連絡してもらうように伝えておくのも一案です。(第4章 病気になったおきの対応ー医療機関との連携は密か)

施設の中でもとくに老健入所を考えているかたは、一度立ち止まって考えてほしと思う。もし今10〜数十種類の薬を飲んでいて、それらすべを飲まないといけない強迫観念にかられている人は、老健は選択しないほうがいい。薬を大幅に減らされるからである。

また病院でリハビリを毎日やっていて、身体を元にしだいと考えている重度の方麻痺の人も老健を選ぶ際は慎重になるべきだ。病院のように毎日、時間をかけてリハビリするところはないので、生活のなかで動作機能の訓練をするか、にかかっている。ちゃんとした施設なら在宅環境まで考え施設内でリハビリメニューを作ってくれるが、そうでない普通の老健だとやることは特養とほぼかわらない。リハビリができる施設というのを文字とおり受け取れないのが老健なのだ。

介護施設見学にはメジャーが役立つ

 介護の知識の少ない施設では、ときどき病院と同じような医療用ベッドが使われていることがあります。医療用ベッドは幅が狭く、周囲が柵で囲まれているためベッドでは寝返りを打ちにくく、自分のちからだけでベッドを降りることもできません。その結果、ベッドにじっと横たわって時間が長くなり、褥瘡や寝たきりを増やしています。
 介護施設のベッドは、幅がある程度広く、床高の低い介護用のものが適しています。体力の落ちた高齢者でもゆっくりと寝返りを打ちやすく、ベッドから起き上がる動作もずっと楽になります。(第4章 居室の環境ー高齢者が「自分の部屋」で落ち着けるか)

メジャーを持っていって、ベッドにおくマットレスの幅をはかってほしい。89〜93cmしかないベッドはダメである。最低でも100cmの幅が確保されているベッドであるべきなのだ。上にかかれている理由をもっとくわしく書くと、寝た状態から起き上がる時、人は横を向いて片腕を広げる。力が弱った人ほどこの腕の角度をひろくとらないと起き上がれない(一度自分でやってみてください)。そのため幅が狭いベッドが本人の自立支援を阻害していることになるのだ。そのことをちゃんと分かっている介護施設は病院と同じ幅のベッドは絶対に使わないのである。

また椅子の座面までの高さもはかってほしい。高齢者の女性の場合、普通の椅子に座ると足底が地面につかない。すると立ちにくいし、食事の時もしっかり足をついて前かがみの姿勢になれない。前かがみの姿勢が誤嚥しにくい基本の姿勢でる。だから良い施設は座面の高さが違う椅子を数種類そろえている。メジャーではかって、座面までの高さがすべて40センチ(だいたいこの高さになる)という施設は配慮がたりない施設といえる。

家族も施設からみられている

 また施設では、高齢者を受け入れるのに「家族の対応」も見ています。
 高齢者が施設で生活をする際は、家族と相談しながら、対応を決めていかなければいけないことがたくさんあります。仮に高齢者本人の入所の点数が同じ場合、家族が遠くに住んでいるてめったに施設に来られない人や連絡をとりづらい人よりも、家族がすぐに来られる地域位に住んでいてまめに施設を訪れて職員と話をする(略)対応のいい家族がいる高齢者に入所してもらいたいと思うものです。第4章 入所を待つ間にできること

家族にも社会福祉の支援が必要とされるケースがある。入居者本人にとくに問題なくとも、家族に難ありという理由で入居を断る老人ホームが実際にある。精神障害が安定していない息子さんとか、年金だけあてにして生活している娘さんとか。
まあこれは極端な例としても、家族が社会的な問題を抱えている場合はいろいろ難しい目にあうことが分かっている。余裕のない施設なら、問題のない家族のお年寄りを先に入居させる可能性がある。

100%失敗しない介護施設選びはない

100%失敗しない介護施設選びというものはないと思う。選びに選んで、ここで良しと思って入居させても、施設もまた変化していくからだ。トップが変わったり、介護リーダーが変わったり、仲のよい介護職も異動したりする。長い入居生活のお年寄りにとって変わらないのは家族だけかもしれない。だから入居後にも施設選択を失敗に終わらせないよう努力するしかない。家族が積極的にケアにかかわるしかないのだ。
「施設に預ければ安心」というのは最初から存在しない神話なのである。

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