KAIGOワーカーズ交流会 「介護職 vs 介護ロボット 移乗編」~ワンオペ・トランスの限界はどこ?~

SASUKE
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5月14日に開催したKAIGOワーカーズ交流会のテーマはワンオペ・トランス=一人での移乗介助。いつかとりあげようと思っていた。なぜかというと、僕が特養の介護職だったときの経験に由来する。僕がいたのは本体の特養が近くにあるサテライト型と呼ばれる小規模特養で、定員はわずか29人の施設だった。

「うちは普通の特養と何も変わりませんから」
1階は事務所、2階は小規模多機能型施設、3階は単独型ショートステイ施設、そして4,5階がユニット型特養。ユニット(入居者のグループ)は3つに分かれていた。4階に10人と9人ずつの2つのユニットがあり、5階に10人のユニットが1つ。僕が配置されたのは5階。

以前はワンフロア20人のところで介護職をしていたことがある。だから最初10人しかいないなんて楽だな、と思っていた。加えてユニット型というからには、さぞ個別的な関わりができるんだろうな、とも思った。でもそれは大間違いだった。入職初日に介護リーダーが僕にこう言った。

「うちは普通の特養と何も変わりませんから」

別に個別ケアをしようと思ってユニット型施設にしたわけではないということである。単にいろんな条件が重なって、サテライトのユニット特養にしたというだけの話だった。その言葉の意味はあとでひしひしと理解できた。旧来の介護体制という中身を変えず、外見だけ最新のユニット型にすると、何が問題になるか?最大の問題は入居者が少ない分、介護職員の数も少ない、ということだ。要介護者の数が少ないんだから、介護職の数も比例して少なくなる。そんなのは当たり前じゃないか、と思うだろう。その当たり前がくせ者なのである。

僕がいたフロアでは日中の介護職の数は最大で3人。それも時間帯をずらして勤務するので早朝は1人、午前中2人、午後から夕方まで3人(途中休憩等で1人抜ける)、夕方から就寝まで2人といった数である。夜勤帯はとうぜん1人。

どうやってトイレに座らせればいいの?
僕が戸惑ったのは朝の排泄介助である。夜間帯は全員がオムツ装着。朝起きて紙パンツにする人は5人。残りの5人は日中もオムツをつけていた。僕の目からみると、全員日中は紙パンツにできるはずだった。なぜなら座位が保てるからである。日中の排泄介助はベッド上ではなく、トイレで行うべき人たちばかりだった。

オムツをずっとつけていて困るのは排泄コントロールがまったくできないことである。いや、排泄コントロールができないからオムツをつけているのではないか?と普通の人は考える。しかしこれは逆なのである。意識がまったくなかったり、ベッド上で安静が必要な人のオムツ着用はやむを得ない。しかし、オムツを着用すべきなのはその2つくらいである。

認知症があって尿意・便意がないからオムツをするのはしょうがないと考える人もいる。これも間違いである。重度の認知症になると便意を明確に訴えられなくなるが、排泄のサインは出る。しかしこれには条件がある。オムツをさせられていない人なら、という条件だ。

オムツをしているといつでもどこでも排泄可能な環境が作られる。それならおしっこやうんこを我慢する(コンチネンスという)必要がなくなる。だから便意がなくなるのである。「認知症だから便意がないのでオムツにします」、なんていう介護職がいたら最低である(その職場にいたんだけど)。

そんな介護職がいる介護施設からはできるならすぐに逃げ出してほしい。でも一度入居してしまうといろんな事情があって簡単に逃げ出せるものでもない。介護職の僕だって色んな事情があって簡単に辞められなかった。だから介護職も家族も施設選びは慎重にしたい。

介護ロボットがあれば移乗できる
介護職が日中2人いればオムツをはずし、紙パンツにできるはずだった。立位が自力で保てない要介護者がいれば、一人が支えて、もう一人がズボンとパンツをおろすのだ。僕が前いた施設ではそうしていた。しかし僕がいたユニット型施設では、圧倒的に1人介助の場面が多かった。立位がまったくとれない入居者を一人介助で便器に移すことは僕にはできなかった。そんなとき、介護ロボットがあれば一人でもトイレに移乗できるのでは?と思った。そこで介護ロボットについて調べてみたのである。

僕がその施設で介護職をしていたのは数年前だが、介護ロボットはすでに登場していた。そこで大阪で開催されているバリアフリー展に行ってみた。そこで介護ロボットの展示がされていたからだ。そこに行き、直接自分の目で介護ロボットを確かめ、メーカーの人にも話を聞いてみた。面白いことに、メーカーの人は皆そろってこう言った。

「介護ロボットを使えば介護者の負担が減ります。要介護者にとっても介護者に遠慮しなくてすむメリットがあるんです。なにより安全で安心です」

表現は少しずつ違うが、ほとんど同じである。まるで人間のほうがロボットみたいだった。同じ質問には同じ答えしか返せない。僕がみた限りでは、介護ロボットを使った移乗はモノの移動という感じであり、じっさいに要介護者は終始受け身の姿勢をとらされる。バリアフリー展に展示されていた移乗のための介護ロボットは、僕が考えているような移乗介助の姿とは違っていた。

僕は別に介護ロボットを毛嫌いしているわけではない。体重が100キロの利用者がいて、その人に全介助が必要な場合は移乗リフトなり介護ロボットを使うべきだと思う(でも100キロもあると移乗リフトの方が壊れるけれど)。ただ僕には現場での使い所がまだよくわからないだけである。

スーパートランスという移乗
介護ロボットは想像していたのとは違っていた。それに現実的に僕の一存で施設にロボットを導入できるわけでもない。職場では介護職がどんどん辞めて行き、毎日の業務をまわすことでキュウキュウである。シフトの見直しなんて上司に進言したら、見せしめにベランダに吊るされそうな雰囲気である。

だったら一人で移乗できる方法を見つけるしかない。そのときスーパートランスという方法があることを知った。RX組の青山幸広氏の著書を見つけたのだ。普通の移乗方法とはぜんぜん違っていたが、これしかないと思った。スーパートランスが使えそうな入居者を慎重に見極め、少しずつ試してみた。普通の移乗介助の方法とは違って、スーパートランスを試そうとすると、お年寄りとより密なコミュニケーションが必要なことがわかった。本当に信頼関係ができていないと実践できない方法だと感じた。怪我だけはさせられないから、家で何度もイメージトレーニングをし、妻で練習した(体重がずいぶん違ったが)。

僕は段階をおって少しずつ試していった。まず自分の膝に乗せるところから始め、前かがみになってもらい・・・という感じだ。はっきり言って、その入居者が協力的な人じゃなかったらできなかった。そのうちにお互いにどう動けばいいかが分かってきた。そうして一人介助で便器に移すことができるようになった。最初のうちはもちろん嬉しかった。これでオムツをはずすことができると思った。でもすぐに僕一人がそんな介助方法をとっていても、ほとんど意味がないことに気づいた。

犬は橇を引くが、猫は橇を引かない
単純な理由である。僕がいない時間帯はあいかわらずオムツをしているからである。入居者にしてみれば介護職側の気分一つでオムツと紙パンツを行き来させられているだけなのだ。オムツはある意味では楽である。ずっとベッド上でオムツ交換を受けてきた人にとって、便器に移るのは苦痛を伴うこともあるだろう。

どうしたらいいのかと考えているうちに、その入居者は持病が悪化し、入院した先で亡くなった。その後、僕は他の入居者にスーパートランスを試すことはしなかった。

けっきょく言い訳になるけれど、入職したばかりの新人の話を聞いてくれる雰囲気の施設ではなかった。人は権威か権力のどちらか一方を持っている相手の話は聞くが、そうでなければ聞く耳をもたない。だったらお前が介護リーダーになればいいじゃないか、と言われそうである。我慢できなかったお前が悪いのだ、と。

しかし犬は橇を引くが、猫は橇を引かない。人にも絶対的な向き、不向きがある。当時の僕には(今でもそうだと思うけれど)リーダーは不向きだった。

交流会での参加者の話
数年前にこんな経験をしていたので、いつか介護ロボットをとりあげようと思っていた。他の介護職はどう思っているのか聞いてみたかったのもある。以下は交流会での参加者のコメント。今回のテーマに参加するくらいなので、皆さん移乗介助に関心が強かった。

「移乗介助の研修は最初に一度あるだけであとは認知症とか食事介助とかばかりです。移乗介助はあまり重要視されていないという気がします」

「他の介護職は移乗介助に関しては関心がうすいように思います。ただ移動させるだけ、という印象が強いです」

「うちの施設でも青山幸広さんを講師に呼び、スーパートランスの技術を教えてもらっています。でも技術が先にきて、なぜその移乗方法にいきついたのか、という部分を介護職が受け取っていないように思います」

「外国人介護士が日本語のコミュニケーション能力が不足していていも、介護ロボットを使えば移乗できる気がする」

「介護技術が未熟な新人職員でもリフトを使えば移乗できるので、リフトを使ってしまう。なぜかというと、指導する時間がないから」

なるほどな、という話だった。

老人Zの時代がくる
数年前に比べると、介護ロボットの導入は着実に進んでいる。僕が考える究極の介護ロボットはアニメ老人Zに出てくる介護ロボットである。1991年に公開された映画だけれど、当時は技術的に不可能だったことも、現代では実際に可能になっている。あと30年もすれば映画に出てくる介護ロボットが普通に一般家庭に置かれているかもしれない。

映像が流れます
注:クリックすると映像が流れます。

交流会参加者のコメントで「介護技術が未熟な新人職員でもリフトを使えば移乗できる」という話には考えるところがあった。職員に対する介護技術指導をする余裕がない現場では、移乗リフトや介護ロボットの需要が高まるかもしれない。でもそれは介護技術の向上をはばむことになりはしないか。現実的に技術が身につく前に、利用者の安心と介護職の腰の安全を守るという理由で介護ロボットの利用が推奨される。それが移乗介助のスタンダードになる時代がくるかもしれない。
そうなったら、移乗介助を楽しいと感じる僕にはずいぶん寂しい時代になってしまうな、と思うのだけれど。


懇親会の様子

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