サービス付き高齢者向け住宅。実は危険?

ービス付き高齢者向け住宅が乱立している。僕の住んでいるところは京都の郊外で周りは田畑と竹林である。コンビニとファミレスとマクドナルドとツタヤだけはかろうじてある。そんな典型的な田舎なのだが、ちゃんとサービス付き高齢者向け住宅がある。近くに特養や老健がないから建てたのだろう。でも介護関係者の僕でさえ「え?こんな田舎に高齢者マンション?」と違和感を抱いたくらいだ。老人が建物から出てくる姿を一度もみたことがないのも別の意味で違和感があるのだが。

サ高住の事故、1年半で3千件超 半数以上、個室で発生
朝日新聞 http://www.asahi.com/articles/ASK5652PFK56OIPE00C.html

もともとは自立老人のための高齢者専用マンション
サービス付き高齢者向け住宅は基本的に生活相談サービスと、緊急時通報サービスのみを提供する。夜間に人が常駐しないところもある。もともとの成り立ちは、高齢という理由で入居を断られていた普通老人のための「高齢者専用マンション」だった。

それがいつからか食事の提供をはじめ、掃除、洗濯は基本サービスとなり、車椅子の人が増え、介護サービスの利用が常駐化し、介護施設と見分けがつかなくなった。つまり自立老人の棲み家ではなく、要介護老人の介護施設になった。
調査では入居者の88%が要介護認定(要支援を含む)を受けていて、要介護3以上の重度者が30%もいる。認知症はいうに及ばずである。

このサービス付き高齢者向け住宅で事故が多いという調査報告がでた。2015年1月から1年半の間に、死亡や骨折など少なくとも3千件以上の事故があったそうだ。報告書では、半数以上の事故1730件が個室で起き、そのうち991件は職員が手薄になりがちな午後5時~翌午前9時の間ということ。国は対策として夜間の職員配置の情報公表を行うらしい。今後新しく建てるサ高住は情報公開しないと建設費の補助が受けられなくなる。

・・・、え?対策これだけ?

サ高住で死後4日放置
2015年8月には大阪市の「Cアミー ユ淡路駅前」で82歳の入居者が遺体で発見されている。死因は病死で死後4日もたっていた。なぜ4日も放置されたのか?
「本人が安否確認を拒否していたから」が理由だそうだ。
たぶん認知症もなくしっかりした性格の入居者だったのだろう。僕もそういう利用者から居室の巡視を断られたことがある。

だが支援の必要のない本当に元気な人は、わざわざサービス付き高齢者向け住宅には入らない。何かと問題のアミーユだが、ケアの考え方に問題があったと僕は思う。

安否確認のためにベランダをのりこえる
僕は在宅のケアマネをしているあいだ、ベランダを3度も乗り越えたことがある。利用者の安否確認のためだ。この仕事をしていると、利用者と1日〜数日連絡がとれない場面を経験する。固定電話にも携帯電話にも出ない。1日に何度かけても出ない。返事の電話もかかってこない。カエルさえも鳴かない。

緊急連絡先の家族にも連絡がとれない。そもそも家族がいない人もいる。介護サービス事業者に本人が入院していないか、どこかにでかけると言っていなかったか確認する。生活保護者はケースワーカーに確認する。誰も心当たりがない。予定していた訪問介護が行っても、玄関はあいておらず返事がない。

ヘルパーが「あの人は留守にするときはかならず連絡をくれるはずなんですけどね」なんて不吉なことを言い始める。頭上でカラスが鳴く。これはやばいかもしれないと僕も考え始める。

しょうがないからまず自宅に行き、無駄だと思いながら外から呼びかけてみる。案の定返事がない。玄関は施錠されていて、他の窓もすべて閉じられている。もしかしたら中で倒れていて、うめき声をあげているんじゃないかと思って耳をすましてみる。何の音もしない。気配が感じられない。さて困ったことになったぞと思う。

一人で外にでかけられるお年寄りの場合、考えられるのは3つである。

(1)誰にも行き先を伝えず外で気楽に遊んでいる
(2)外で倒れて救急車で病院に運ばれそのまま入院中
(3)自宅内で倒れて動けなくなっている

さて、僕たち援助職はどう行動すればいいのか?問題は(3)の場合である。中で倒れていることがわかっていれば(声が聞こえたりしていれば)、何の躊躇もなくレスキューと救急車を呼べばいい。レスキュー隊が鍵を壊して中に入ってくれるからだ。問題は中にいるのか、いないのかわからない場合である。

中で死んでいるかもしれない
玄関は開いていたが、シャッターの中扉が施錠されていたケースがあった。玄関は開いているから外出しているとは考えらない。でも中扉の鍵がかかっているので中に入れないし、外から声をかけてもまったく返事がない。家のなかで人が動いている気配がまるでない。家族や関係者にはすべて連絡をとったが、安否確認がとれず3日立っていた。

様子を見ていた家族も心配になったが遠方ですぐにはこれなかった。そこで家族に了解をとり、消防局に事情を説明すると、レスキュー隊と消防隊がかけつけた。変死状態で見つかるかもしれないということで警察まできた。レスキューが鍵を壊し、数人が踏み込んだ。僕は玄関から少し離れたところで待っていた。

結果は?ここまでその道のプロがそろったのだから、みんな死体があると確信していたはずである。しかし家のなかは清潔そのもの。誰もいない。机の上に航空券とホテルの予約票のコピーがあった。ホテルに電話すると、本人の元気な声が聞こえた。なんとその人は一人でふらっと旅行していたのである。

あとで本人になんで勝手に家の鍵を壊したのだ、と怒られたのは僕である。なんでやねん。この利用者にしてみれば、旅行くらい行くわい、数日連絡がとれなかったくらいで勝手に人の家の鍵を壊すな、というところである。ごもっともだが、こちらは大変な思いをしたのだ。

こんなケースもあるので、レスキューを呼ぶのは最終手段にしたいのである。自宅の鍵の修理代はもちろん本人持ちだからだ。

だから僕はこれまで安否確認がとれない利用者のために3度もベランダをよじのぼり、窓のカーテンの隙間から中を覗き込んだ。第三者にみられたら完全におかしい人である。通報されずによかったと思う。いや通報されたほうがかえって利用者の安否確認が簡単にとれてよかったのかもしれない。警察独居老人の安否確認ごときでは動いてくれないから、こうやって警察を動かすのもありかもしれない(おすすめしているわけではない、念のため)。

ほっておけばいいじゃないか
ケアマネは利用者の後見人ではない。そこまでするほうがバカなのだ、と言われそうである(後見人でもこんなバカはしない)。もしベランダから落ちて怪我をしたり、転落死でもしたら完全なバカである。僕はベランダを乗り越えときに、いつもちゃんと労災は降りるんだろうかと心配していた。

断っておくが、安否確認のためでもベランダを乗り越える行為は職域外である。というか、下手をすると不法侵入になる。すべてのケアマネがこんな行動をとるわけではないし、取ることを推奨もしない。自宅生活にはリスクが伴う。ほっておけばいいじゃないか、とも思う。

僕が担当していたのは要支援認定を受けている比較的軽度の人達だった。介護サービスがなくても生活が可能な人も多い。実は要介護で介護サービスを利用している高齢者のほうが訪問介護も入るし、デイサービスにも行っているので常に安否確認状態にある。軽度者のほうが普段の生活が見えにくい。だからどこかに遊びに行っているのか、病院に入院しているのか、はたまた家族の家に泊りに行っているのか、把握できないこともままある。すべてを把握する必要はまったくないし、不可能である。

生活はプライベートなものだ。他人に積極的に介入してほしいと思うほうがまれではないか?利用者やその家族は困って仕方なく、自分たちのプライベートな空間に他人の介入を許すのである。僕はそう考えていたので、最低限の面接回数で最大限のサービス効果が発揮できるように、と思って関わっていた。

確認できるのが自分だけだったら?
でも助けを呼ばなければいけない事態に陥っていたり、中で亡くなっていたりしていたら?しかもその可能性を確認できるのが僕だけだったら?

3回ベランダをよじ登ったうち、2回は何の問題もなかった。留守だったり、単に電話に出なかっただけだ。しかしそのうちの1回は浴槽の中で亡くなられていた。僕がレンジャーを呼ばなければ数日間はそのまま湯船の中に放置されていただろう。

在宅のケアマネージャーほど業務とボランティアと自己犠牲の境界があいまいなものはない。時によってどれを使い分けるかは答えのない問題である。

なかなか難しいけれど、サービス付き高齢者向け住宅を「単なる独居老人の集合住宅」にするか「ケア付きの集合住宅」にするかは、介護する側の問題だと思うのだけれど、どうでしょう。

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